ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

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概要

日本結晶学会誌Vol57No1

石井賢司,藤田全基図5(a) x=0Energy [eV]Energy [eV]0.30.20.10.30.20.1た.一方,INSでは,母物質の反強磁性ブラッグ点q AF=(0.5,0.5)近傍††の,銅L 3吸収端IXSよりは低エネルギーのスピン励起を議論する.Pr 1.40-xLa 0.60Ce xCuO 40 0.5 1.0 1.5 2.0Momentum h in q ||=(h,0.5)図5aに母物質(x=0),図5bに電子をドープした物質(x=0.18)のINSの強度マップを示す.図5aの0.1 eV付近,図5bの0.1 eVと0.31 eV付近にある運動量依存性のない励起は,試料に含まれる希土類の結晶場励起によるもので,ここでは無視する.母物質のPr 1.60La 0.40CuO 4では,Nd 2CuO 4と同様,反強磁性スピン波が観測されている.そのピーク位置を図中に重ねてプロットすると青い●のようになり,Nd 2CuO 4のスピン波分散とほぼ一致する.この結果は,IXSで測定したNCCOとINSで測定したPLCCOの間でスピン励起の比較が有意であることIntensity [arb. units]0 0.5 1.0 1.5 2.0Momentum h in q ||=(h,0.5)(b) x=0.181(c)Intensity [arb. units]Energy = 0.24-0.27 [eV]x=0x=0.08x=0.18-1 0 1Momentum h in q ||=(h,0.5)Pr1.40?xLa0.6CexCuO4のINS強度マップとその定エネルギーカット.(INSintensitymapsofPr1.40?xLa0.6CexCuO4and their constant energy cuts.)(a,b)図中の青い●はスピン励起のピーク位置を表す.(c)破線は磁気ブラッグ点q AF=(0.5,0.5)を示す.(a)の0.1 eV付近,(b)の0.1 eVと0.31 eV付近にある運動量依存性のない励起は,試料に含まれる希土類の結晶場励起によるものである.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.††銅L 3吸収端(約933 eV)のX線は,波長が長過ぎるためにq AFまでは測定することができない.0.50の根拠となる.電子がドープされると,0.1~0.3 eVの強度はq AFに集中し,q ||=q AFから急峻に立ち上がる励起に変化する.筆者らのグループがこのようなq AFから急峻に立ち上がる励起がおよそ0.18 eVまで存在していることを過去のINSの実験から報告していたが,13)今回の研究で,それがさらに0.3 eV付近まで続いていることが明らかになった.図3cには,0.24~0.27 eVの強度を積分して運動量に対してプロットした結果を示す.母物質では,q ||=(0.25,0)とその等価な位置にピークがあるが,電子ドーピングが進むにつれて,ピーク位置がq AFに向けてシフトしていく様子がわかる.別の言い方をすれば,ある運動量で固定してみると,ドーピングによって励起が高エネルギーにシフトしているということになり,銅L 3吸収端RIXSで観測された特徴をINSでも捉えたことになる.3.2電荷励起3.2.1硬X線非弾性散乱(銅K吸収端RIXS)少し古い研究であるが本研究の議論に必要なので,以前のNCCOに対する銅K吸収端RIXSの研究結果について触れておく.8),14)図6aにq ||=(0.25,0)で比較したNCCOのスペクトルを示す.先に述べたとおり,銅K吸収端RIXSでは電荷励起のみが観測される.モット絶縁体である母物質(x=0)では明瞭なギャップが観測されており,電荷を動かすにはこのギャップを越えるエネルギーが必要となる.電子がドープされると1 eV付近に励起が現れる.その強度がほぼ電子濃度(x)に比例していることから,ドープされた電荷に関係した励起である.われわれは,これを銅の上部ハバードバンドにおけるバンド内励起と考えた.図6bにx=0.15の運動量依存性を示す.ここでは,スペクトルを弾性散乱(緑一点鎖線),バンド内励起(赤長波線),モットギャップを越える励起(黄色二点鎖線),より高エネルギーにある励起の裾(灰色短破線)で解析した.その結果からわかるように,電子ドープによって出現したバンド内励起は大きな分散をもっている.図6cには運動量・エネルギーに対するRIXS強度マップを示す.q ||=(0,0)付近で2 eVにあるピークがモットギャップを越える励起,q ||=(0,0)から立ち上がる分散をもった励起がバンド内励起である.図6bと同様の方法で求めたバンド内励起のピーク位置を図6cに重ねると,薄赤?のような分散になる.この実験を行った2004年当時のエネルギー分解能は約400 meVであり,q ||=(0,0)の近傍,エネルギーにしておよそ1 eV以下の励起は観測できていなかった.3.2.2軟X線非弾性散乱(銅L 3吸収端RIXS)図3bでは,単一スピン反転励起とdd励起の間にあるスペクトル強度を,母物質では主としてtwo magnon励起によるものと考えた.ラマン散乱の実験では,twomagnon励起は電子ドープともに強度が失われることが24日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)