ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

ページ
31/94

このページは 日本結晶学会誌Vol57No1 の電子ブックに掲載されている31ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol57No1

軟X線・硬X線・中性子非弾性散乱を用いた銅酸化物超伝導体のダイナミクス研究子はJ-PARC,BL01の4SEASONSを使用して行った.測定におけるそれぞれの役割は,図2cに示すように,スピン励起は中性子が低エネルギー側,軟X線が高エネルギー側,電荷励起は軟X線が低エネルギー側,硬X線が高エネルギー側となっている.RIXSは共鳴過程を含んでいるので観測されるスペクトルがどのような物理量と関連づけられるかは必ずしも自明ではない.しかし,本稿での議論するRIXSでは二体相関,つまり,スピン励起は動的スピン相関,電荷励起は動的電荷相関を観測していると考えておおむね問題ないことが理論計算から保証されている.8)-10)3.1スピン励起3.1.1軟X線非弾性散乱(銅L 3吸収端RIXS)図3aに銅L 3吸収端RIXSの典型的なスペクトルを示す.1 eV以上には,銅の占有3d軌道から非占有3d軌道(x 2 ?y 2軌道)への局所的な励起(dd励起)が観測される.本研究で注目するのは,強度にしてdd励起の数分の一である1 eV以下の領域である.銅酸化物超伝導体の電子状態は二次元性が強いため,運動量は二次元面(CuO 2面)に射影した成分(q ||)で議論ができる.図3bにはNCCOの運動量q ||=(0.18,0)におけるドーピング依存性を示す.母物質(x=0)のスペクトルは,7),11),12ほかのホールドープ系の母物質)と同様に,弾性散乱(緑一点鎖線),単一スピン反転励起(青点線),複Intensity [arb. units](a) x=0, q || =(0.18,0)xyxz/yz3z 2 -r 2magnetic0 1 2 3Energy [eV](b) q =(0.18,0)(c) x=0.15, q =(h,0)x=0.18h=0.14x=0.15h=0.09x=0.075h=0.05x=0h=0.02Nd 2-x Ce x CuO 4||-0.50||0.51数のスピン反転を伴う励起(黄色二点鎖線),dd励起(灰色短破線)に分解できることがわかる.単一スピン反転励起は反強磁性スピン波励起(single magnon),複数のスピン反転を伴う励起は主としてtwo magnon励起によるものであり,前者がスペクトル強度の大部分を占めている.電子がドープされるにつれて,スペクトルの重心は高エネルギー側に明瞭にシフトし,さらに幅が広がっていることがわかる.電子ドープした物質(x=0.075,0.15,0.18)のスペクトルは,弾性散乱(緑一点鎖線),単一スピン反転励起(青点線),高エネルギー成分(赤長破線),dd励起(灰色短破線)でスペクトル形状がうまく再現できる.母物質での複数のスピン反転を伴う励起の代わりに高エネルギー成分として別の励起を考えているが,この励起については次節で議論する.電子ドープした物質でも単一スピン反転励起がスペクトル強度の大部分を占めている.通常,スピン励起と言えば,この単一スピン反転励起を指し,INSと比較されるべきものでもあることから,以下でも単にスピン励起と記す.図4aに母物質(x=0),図4bに超伝導組成(x=0.15)の運動量・エネルギーに対するRIXS強度マップを示す.フィッティングによる解析で得られたスピン励起のピーク位置を青い■で重ねてプロットしてある.母物質のスピン励起は,反強磁性スピン波で期待されるとおりサイン波的な分散関係をもっている.電子がドープされた超伝導組成でのスピン励起では,先に述べた高エネルギーへのシフトと幅の広がりという特徴が見て取れる.3.1.2中性子非弾性散乱銅L 3吸収端RIXSからは,ブリルアンゾーンの中心q ||=(0,0)周辺のスピン励起を明らかにすることができEnergy [eV](a) Nd 2 CuO 410.80.60.40.200 0.1 0.2 0.3 0.4Momentum h in q || =(h,0)Intensity [arb. units]図3-0.5 0 0.5 1Energy [eV]日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)Energy[eV]Nd 2?xCe xCuO 4の銅L 3吸収端RIXSスペクトル.(CuL 3-edge RIXS spectra of Nd 2?xCe xCuO 4.)(a)母物質(x=0)の広いエネルギー範囲でのスペクトル.1eV以上にあるのは,それぞれの図中に示した軌道からx 2 ?y 2軌道へのdd励起である.1 eV以下には磁気励起が観測される.q||は運動量のCuO2面内成分である.(b)q ||=(0.18,0)におけるドーピング依存性.青点線の棒はスピン励起のピーク位置を表す.(c)超伝導組成(x=0.15)の運動量依存性.青点線,赤長破線の棒はそれぞれスピン励起,電荷励起のピーク位置を表す.実線はフィッティングによる解析結果で,詳細は本文中に記す.Energy [eV]図410.80.60.40.200.30.2 0.1h in q || =(h,h)(b) Nd 1.85 Ce 0.15 CuO 40 0 0.1 0.2 0.3 0.4Momentum h in q || =(h,0)Nd 2?xCe xCuO 4の銅L 3吸収端RIXS強度マップ.(Cu L 3-edge RIXS intensity map of Nd 2?xCe xCuO 4.)図中の青い■,赤い◆はフィッティングによる解析で得られたスピン励起,電荷励起のピーク位置を表す.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.23Intensity [arb. units]