ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

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概要

日本結晶学会誌Vol57No1

特集マルチプローブ研究が拓く構造研究の新時代2.構造物性分野におけるマルチプローブ研究日本結晶学会誌57,20-26(2015)軟X線・硬X線・中性子非弾性散乱を用いた銅酸化物超伝導体のダイナミクス研究日本原子力研究開発機構量子ビーム応用研究センター石井賢司東北大学金属材料研究所藤田全基Kenji ISHII and Masaki FUJITA: Electron Dynamics of Copper Oxide SuperconductorsStudied by Soft X-ray, Hard X-ray and Neutron Inelastic ScatteringWe combine soft X-ray, hard X-ray, and neutron inelastic scattering measurements to study bothspin and charge excitations in electron-doped copper oxide superconductors. Thanks to the recentdevelopment of beam sources and related experimental techniques, accessible energy range of theinelastic scattering measurements overlaps each other and it enables us to investigate spin and chargedynamics in the important but unexplored energy-momentum space of the cuprate superconductors.Our study demonstrates that complementary use of X-ray and neutron has become effective in inelasticscattering for studying electron dynamics of materials.は,今なお興味深くチャレンジングな課題と言える.3)電気抵抗がゼロとなる超伝導は,ロスのない送電線や1998年に4)議論されていたものの1つは,秩序化した1.はじめに電子自由度(電荷・スピン・軌道)の観測である.スピ「マルチプローブ研究が拓く構造研究の新時代」という特ンに関して有利な中性子に対し,共鳴X線回折によって集への記事ということで,執筆依頼をいただいた.本稿での電荷秩序,軌道秩序が直接的に観測できるようになっマルチプローブはX線と中性子線である.結晶学において重たことが紹介されている.また,第3世代放射光光源を要な実験手法である回折・散乱では,X線と中性子を組み合使ってのIXSによる実験が始まってきたことから,フォわせて利用することは比較的なじみやすいものと思う.どちノンに関しても詳しく議論されている.さらに,詳細ならも波長が1 A程度であり,原子間距離が同程度である結晶議論はなされていないが,電子状態のエネルギーレベル,の観測には都合がよいからである.両者の間の高い相補性にすなわち,電子励起の測定についても大いに可能性があついても,その時代ごとの流れに応じて議論されてきた.るだろう,という言及がある.1991年には,1)X線の弱点である軽元素や原子番号が2015年の本稿は,それが実現したということを示すこ近接する元素の認識を中性子で補うといった伝統的なとが目的である.近年の実験技術の発展により,INSと利用に加えて,中性子だけでなく放射光の登場でX線でIXSが電子励起においても同じ土俵に立つことができるも観測が可能となった磁気回折についての相補性が詳ようになってきた.(格子ではなく)価電子を観るといしく議論されている.磁気回折について,汎用性というう点でのX線と中性子の相補利用は,これまでは回折実点で中性子に分があるというのは今も変わらないが,X験による静的構造にほぼ限られていたが,非弾性散乱に線では選択則によって磁性を担う電子の特異な波動関よる動的構造の研究においてもそれが可能となる時代数を決定できたというユニークな利用法も最近では報告が到来したのである.筆者らの研究グループが行った電されている.2)加えて,フォノンについても議論されてい子ドープ系銅酸化物高温超伝導体におけるスピン・電る.原子核を観る中性子に対し,X線では電子の振動と5荷励起の研究)を通して,マルチプローブを用いた電子して観測される.さらに,原子核や内殻電子とは異なるダイナミクス研究の一端を紹介したい.詳細は後述する価電子の振動がmeV分解能の非弾性X線散乱(Inelasticが,本研究でのX線については軟X線と硬X線の役割がX-ray Scattering,IXS)で観測できる可能性について記大きく異なっており,中性子と合わせて三種のプローブされている.現在,meV分解能のIXSは実現し,フォノの非弾性散乱を利用したものとなっている.ンの観測も行われるようになったが,非弾性中性子散乱(Inelastic Neutron Scattering,INS)とIXSで得られるフォ2.銅酸化物高温超伝導体とそのスピン・電荷励起ノンスペクトルの違いとして価電子の効果を捉えること2.1銅酸化物高温超伝導体20日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)