ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

ページ
26/94

このページは 日本結晶学会誌Vol57No1 の電子ブックに掲載されている26ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol57No1

八島正知8.新構造ファミリーのイオン伝導体BaNdInO 4の発見と結晶構造決定エネルギー問題と環境問題を解決する可能性を秘めたSOFCsの発電効率を向上させ,製造コストを下げるためには,酸化物イオン伝導度がYSZ(イットリア安定化ジルコニア)より高いイオン伝導体の開発が必要である.そのために,さまざまな新しい酸化物イオン伝導体が研究されてきた.最近ではK 2NiF 4型PLNCG(前7節)など層状構造を有する酸化物イオン伝導体がいくつか発見されている.K 2NiF 4型構造を有する酸化物(A,A′) 2BO 4では陽イオンAとA′のサイズが近いものが多く,AとA′が同じ結晶学サイトに存在する.ここでAとA′は比較的サイズが大きな異なる陽イオン,Bはサイズが比較的小さな陽イオンである.著者らは新しい層状酸化物を見つけるために,陽イオンAとA′のサイズが異なるAA′BO 4酸化物を探索した.さまざまな元素の組み合わせを調べたが,その中で新しい層状構造をもつ酸化物イオン伝導体BaNdInO 4を発見した.35)BaNdInO 4のX線粉末回折パターンを既知の結晶構造では説明できなかったので,未知構造解析を実施した.二分法により指数付けを行い,Le Bail法により強度を抽出,チャージフリッピング法により構造を決定,リートベルト法により結晶構造を精密化した.予備解析で空間群の候補としてP2 1/mを検討したところ,放射光X線回折データのリートベルトフィッティングはR wp=1.69%,R B=1.55%と良かったが,中性子回折データのフィットはR wp=13.50%,R B=17.67%と悪かった.さまざまな構造モデルを検討した結果,単斜晶系の空間群P2 1/cでは放射光X線回折データ(R wp=1.80%,RB=1.31%)と中性子回折データ(R wp=4.17%,R B=4.41%)のフィットが共に良好であった.これは予備解析に比べて最終解析結果ではc軸長が2倍であり,酸素位置が異なっていることが原因である.正確な構造は,中性子回折により初めてわかったものであり,まずX線回折データを用いた未知構造解析により近似構造モデルを作り,正確な構造はX線だけではなく中性子回折データを使って慎重に決める必要がある研究例である.図6にBaNdInO 4の結晶構造と酸化物イオンに対する差原子価結合の総和(DBVS)の等値面(±0.2 vu,1000℃)を示す.BaNdInO 4の結晶構造では,比較的サイズが大きな陽イオンであるBa(図6の緑色の球)とNd(図6の茶色の球)がa軸に沿って規則配列している.電気伝導度測定の結果,BaNdInO 4は850℃で3×10-5 Scm-1の酸化物イオン伝導度を示すことがわかった.酸化物イオン伝導度はあまり高くないが,化学組成を少し変えれば伝導度の向上が期待される.1000℃のMEM中性子散乱長密度分布は接続したイオン拡散経路を示さな図6 ab面(左図)とac面(右図)上に射影したBaNdInO 4の結晶構造と酸化物イオンに対する差原子価結合の総和(DBVS)の等値面(±0.2 vu, 1000℃).(Crystal structure and difference bond valence sum(DBVS)maps for an oxide ion with isovalue at±0.2 vu in BaNdInO 4 at 1000℃projected on the abplane(leftside)and ac-plane(right side). Reprintedfrom Ref. 35 with permission of American ChemicalSociety.)赤い矢印つきの線は可能な酸化物イオンの拡散経路を示す.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.かったので,酸化物イオンに対する差結合原子価の総和(DBVS)の空間分布を計算した.図6のDBVSの等値面に示すように,酸化物イオンはNd-O層のO3とO4席を介して移動し,二次元の拡散経路のネットワークを形成すると考えられる.まとめると,新しいAA′BO 4酸化物イオン伝導体を探索した結果,サイズが異なるA=BaとA′=Ndが規則配列した酸化物イオン伝導体の新構造ファミリーを発見した.規則化により酸化物イオンが拡散するNd-Oユニットが形成されたと考えられる.9.結論と展望本解説記事では中性子とX線回折法を含む多面的アプローチによる,セラミック材料の結晶構造,電子密度分布とイオン拡散経路の研究について説明した.セラミックスの結晶構造を決めるには多面的アプローチによる慎重な検討が必要であることを,可視光応答型光触媒LaTiO 2Nおよびフェリ誘電体AgNbO 3を例にとって記した.そして,K 2NiF 4型酸化物CaRAlO 4(R=Y,Er)の異方性熱膨張の構造的要因,K 2NiF 4型酸化物イオン伝導性材料(Pr 0.9La 0.1) 2(Ni 0.74Cu 0.21Ga 0.05)O 4+δの酸素透過メカニズム,新構造ファミリーのイオン伝導体BaNdInO 4の発見と結晶構造解析の研究に対する多面的アプローチについて説明した.誌面の関係で説明できなかったが,水酸アパタイトの結晶構造,化学結合,不規則構造とプロトン拡散経路,36),37)ならびにセリア-ジルコニアナノ結晶の高温での結晶構造解析と酸化物イオンの拡散経路1),38),39)も多面的アプローチにより研究したので,興味のある読者はご覧いただきたい.中性子回折,特に高温1),35),37),39)でのその場観察,MEMならびに結合原子価法を組み合わせた多面的な可動イオンの拡散経路の研究は強力である.今後,新物質の探索,構造解析ならびに18日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)