ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

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概要

日本結晶学会誌Vol57No1

中性子とX線回折法を含む多面的アプローチによるセラミック材料の結晶構造,電子密度分布とイオン拡散経路の研究結合の最小電子密度がAl-O1よりも低かった.同様の結果は,DFT計算によっても得られた.そのため,Al-O2結合の力の定数がAl-O1より小さいと考えられる.熱膨張係数は力の定数の二乗に反比例するので,熱膨張係数α(Al-O2)がα(Al-O1)に比べて高いと考えられる.すなわちK 2NiF 4型酸化物CaRAlO 4(R=Y,Er)の異方性熱膨張にとって,Al-O結合の異方性が重要であると考えられる.7.K 2 NiF 4型ニッケル酸プラセオジム系混合伝導体における酸素透過メカニズム30)-33)イオン-電子混合伝導性セラミックス(MIECs)はSOFCsの空気極や酸素分離膜として実用化が検討されている.従来のMIECsの多くはぺロブスカイト型構造またはその歪んだ構造を有する酸化物であったが,比較的最近K 2NiF 4型酸化物が注目されている.ぺロブスカイト型酸化物における酸化物イオンの拡散経路はMEM中性子散乱長密度分布によって可視化されたが,34)K 2NiF 4型酸化物における酸化物イオンの拡散経路は未解明なままであった.そこで著者らのグループは優れた酸素透過能を示すPr 2NiO 4系材料の結晶構造,化学結合および酸化物イオンの拡散経路を,高温中性子回折法,放射光X線回折法およびDFT計算などにより研究した.30)-33)空気中25℃から1015.6℃の温度範囲において,(Pr 0.9La 0.1) 2(Ni 0.74Cu 0.21Ga 0.05)O 4+δ(PLNCG)の中性子および放射光粉末回折パターンおよびそのリートベルト解析の結果はPLNCGが正方晶系(空間群I4/mmm)のK 2NiF 4型構造を有することを示した.PLNCGの結晶構造は,(Ni,Cu,Ga)O 6八面体と(Pr,La)-O層からなる.(Pr,La)-O層内のワイコフ位置で16n席((x,0,z),27℃ではx=0.586(6)およびz=0.233(3))には,格子間酸素原子O3が存在することがわかった.そのため(Pr 0.9La 0.1) 2(Ni 0.74Cu 0.21Ga 0.05)O 4+δにおいて過剰酸素がδ存在する(27℃ではδ=0.21(3)).この格子間酸素O3は中性子散乱長密度分布,電子密度分布ならびにDFT計算で最適化した構造においても確認された(図4).O2席(4e(0,0,z),1015.6℃でz=0.1752(4))の頂点酸素原子の原子変位パラメーターは大きな異方性を示す(U 11=U 22=0.115(3)A 2およびU 33=0.021(3)A 2).これは格子間酸素O3が存在することでO2-O3間の反発によりO2の位置がシフトするという静的な変位が原因である(図5).33)この静的な変位は,原子変位パラメーターU 11の温度依存性からも示された.33)O2の原子変位パラメーターの異方性は,O2席から最近接のO3位置への酸化物イオンの移動を示唆する.同様の異方性は中性子散乱長密度分布だけではなく(図4a),実験MEM電子密度にも見られる(図4b).PLNCGにおいて,原子変位パラメーターが異方的な頂点酸素O2および格子間酸素O3を通る酸化物イオンの拡散経路が可視化された.この拡散経日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)路は二次元のネットワークを形成する.格子間O3原子とO2の異方的な分布が酸素の拡散プロセスにとって本質的な役割を果たしている.実際,任意の温度で格子間酸素量とともに酸素透過率は増加する.33)そのためNi 2+席により価数が高いGa 3+を添加すると,過剰酸素量が増えて酸素透過率が向上する.また,d 10 Ga 3+の配位数が柔軟に6から7に変化して(図5),格子間酸素を安定化することも重要である.33)PLNCGの酸化物イオンの拡散経路は高温ほどはっきりと可視化された.そしてPLNCGの酸素の拡散経路上における最小中性子散乱長密度は温度の上昇とともに増加した.33)これは温度上昇とともに酸素の透過率が増加することと合致する.また,Cuの添加によるJahn-Teller効果のため,(Ni,Cu,Ga)-O2距離が増加して結合が弱くなり頂点酸素O2が動きやすくなると考えられる.33)図4図5(Pr0.9La0.1)2(Ni0.74Cu0.21Ga0.05)O4+δの室温における(a)MEM中性子散乱長密度分布,(b)MEM電子密度分布,(c)DFT価電子密度分布.((a)MEMneutron scattering length density-,(b)MEM electrondensity-and(c)DFT valence-electron-densitydistributionsof (Pr 0.9La 0.1) 2(Ni 0.74Cu 0.21Ga 0.05)O 4+δat room temperature. Reprinted from Ref. 31 withpermission of American Chemical Society.)Pr 40Ni 15Cu 4GaO 86における格子間酸素原子(OiとO g),局所構造と格子緩和.(Interstitial oxygen atoms(O i and O g), local structures and lattice relaxationin Pr 40Ni 15Cu 4GaO 86. Reprinted from Ref. 33 withpermission of American Chemical Society.)17