ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

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概要

日本結晶学会誌Vol57No1

八島正知称を示す反強誘電構造をとり自発分極を生じない.それに対して,本研究で明らかにしたPmc2 1モデルではNb2のc軸に沿った原子の変位量がNb1の変位量と等しくない.Ag2とAg3の変位量は等しくない.Ag1原子は変位している.そのため非中心対称となって自発分極を生じる.この変位は,フェリ誘電構造を示している.このようなフェリ誘電構造は珍しく,重要な発見であると考えられる.約63℃で生じる自発分極の消失は,フェリ誘電相から反強誘電相へのPmc2 1-Pbcm相転移であり,この相転移は原子の変位により引き起こされることが示唆された.図2のDFT計算により得られた電子密度分布に示すように,Ag2の変位はAg2-O2共有結合(図2c)により,Ag3の変位はAg3-O5共有結合(図2d)により,Nb1の変位はNb1-O3とNb1-O4共有結合(図2e)により,そしてNb2の変位はNb2-O6とNb2-O7共有結合(図2f)により生じていることがわかった.なお,電子状態密度22)により,この共有結合はNb 4d,Ag 4d軌道とO 2p軌道の重なりによることがわかった.また,この共有結合とAgの存在によりバンドギャップが狭くなり,可視光に応答すると考察される.5.高温における結晶構造とイオン拡散経路の研究クリーンエネルギーのためのセラミック材料として,酸化物イオン伝導体,プロトン伝導体,リチウムイオン伝導体が注目を集めている.これらイオン伝導体では酸素,水素,リチウムなどの軽原子の不規則性とイオン拡散経路を調べることが重要である.そのため軽原子の散乱能が相対的に高い中性子回折を用いることが有効である.特に,酸化物イオン伝導体では,イオン伝導度が高い1000~1550℃の高温で構造解析を行い,可動イオンの不規則性と拡散経路ならびに熱膨張を調べることが,イオン伝導機構や燃料電池材料の研究にとって重要である.そのような高温において単結晶を用いた構造解析を行う際には試料の保持,相転移や双晶の問題を伴う.X線粉末回折測定では粒成長による粗大粒子や配向の問題も深刻である.一方,中性子粉末回折法を使うと良質なデータを比較的容易に測定できる.23)-27)さらに中性子回折データをリートベルト法と最大エントロピー法(MEM)を組み合わせて解析すると,中性子散乱長密度分布が得られ,可動イオンの拡散経路を研究できる.25)-27)ただし,MEM中性子散乱長密度分布で拡散経路を可視化できるのは,イオン伝導度が高い材料について精度が高いデータが得られた場合に限られる.キャリア濃度やイオン伝導度が低い場合は,結合原子価法を使ってイオン拡散経路を調べることが有効である.1)以下に高温における結晶構造および可動イオンの拡散経路の研究をいくつか説明する.6.K 2 NiF 4型酸化物の異方性熱膨張の構造的要因28),29)K 2NiF 4型酸化物は固体酸化物形燃料電池(SOFCs)の空気極,超伝導体とその基板として用いられている.K 2NiF 4型酸化物のいくつかではc軸の熱膨張係数αcがa軸に沿ったαaより大きいという異方性熱膨張を示す(αc>αa)(図3a).この異方性熱膨張は材料を使うとき重要な情報であるが,その構造的要因はよくわかっていなかった.そこでK 2NiF 4型酸化物CaRAlO 4(R=Y,Er)の高温中性子回折実験,室温で放射光X線回折実験およびDFT計算を行った.28),29)化学組成CaRAlO 4を選択したのは,陽イオンの価数と酸素濃度が変わるために生じる化学膨張がない“真の”熱膨張(“true”thermalexpansion)を調べることができるからである.中性子回折データのリートベルト解析により精密化したCaRAlO 4(R=Y,Er)の結晶構造の温度依存性を研究し,原子間距離の熱膨張を調べた(図3c).その結果,Alとエクアトリアル(equatorial:赤道面上の)酸素O1間の距離の熱膨張係数α(Al-O1)に比べてAlと頂点(apical)酸素O2の間の距離の熱膨張係数α(Al-O2)が大きいこと(図3c)が,CaRAlO 4(R=Y,Er)の格子定数の熱膨張の異方性の主たる原因であることがわかった(図3d).CaRAlO 4(R=Y,Er)ではAl-O1距離に比べてAl-O2距離が長く,放射光X線回折データのMEM解析により求めたAl-O2図3CaYAlO 4の(a)格子定数の熱膨張,(b)精密化した結晶構造,(c)原子間距離の熱膨張,(d)格子定数の平均熱膨張係数(TEC,298?1074 K)への原子間距離のTECの寄与.((a)Thermal expansionof unit-cell parameters,(b)refined crystal structure,(c)thermal expansion of interatomic distance, and(d)contribution of average thermal expansion coefficient(TEC, 298?1074 K)of interatomic distance to the TECof unit-cell parameters. Reprinted from Ref. 29 withpermission of The Japan Society of Applied Physics.)16日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)