ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

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概要

日本結晶学会誌Vol57No1

中性子とX線回折法を含む多面的アプローチによるセラミック材料の結晶構造,電子密度分布とイオン拡散経路の研究の価数3.0,Ti 4+の価数4.0,O2-とN3-の平均価数-2.3とよく一致している.また,MEM中性子散乱長密度は精密化した結晶構造と合致する(図1b).LaTiO 2NのImma構造モデルの妥当性を確認し,その電子状態を調べるために密度汎関数理論(DFT)に基づいてLaTiO 2Nのスーパーセル(LaTiO 2N) 4の構造を最適化した.構造最適化における格子定数と原子位置の初期値には,放射光デー_タのリートベルト精密化によって得られたImma,P1,_R3c,LaTiO 2Nの結晶学パラメーターを用いた.Ti周りのO原子とN原子の配置が異なる6個の構造モデルを最適化した.13),14)Immaの初期値で最適化された構造モデルの内,Ti(O 4N 2)八面体の頂点陰イオンが酸化物イオンであり,エクアトリアル陰イオンが2つの酸化物イオンと2つの窒化物イオンである,構造モデル(図1d)の最適化された格子定数と原子位置は,中性子および放射光X線回折データのリートベルト解析により精密化された格子定数および原子位置と一致した.この局所構造モデルのエネルギーは基底状態のエネルギーとほぼ同じであった.したがって,DFT計算もLaTiO 2Nの空間群Immaと結晶構造が正しいことを支持している.放射光X線回折データのMEM解析により得られた電子密度分布(図1c)およびDFT計算により得られた価電子密度分布(図1d)はTi-OおよびTi-N結合間の共有結合を明確に示した.リートベルト精密化とMEM電子密度ではTi-O結合とTi-Nを平均したTi-(O,N)結合の情報が得られるが,DFTではTi-O結合とTi-N結合を独立に調べることができる.DFT計算で最適化した構造と電子密度分布では,Ti-O結合に比べてTi-N結合距離が短く最小電子密度が高いことがわかった.この共有結合と窒素の存在によりバンドギャップが狭くなり,可視光に応答すると考えられる.13),14)ることがわかった.この空間群Pmc2 1と文献で報告された間違った空間群Pbcmの両方に基づいて,中性子回折および放射光X線回折データのリートベルト解析を行った.2中性子回折データのリートベルト解析において,従来のPbcmモデル(重みをかけたプロファイルについての信頼度因子R wp=5.43%)に比べて,新しいPmc2 1モデル(Rwp=5.27%)のフィットが良かった.Pmc21AgNbO3の格子定数はa=15.64773(3)A?4ap,b=5.55199(1)A?2 a p,c=5.60908(1)A ? 2 a pと精密化された.apは擬ペロブスカイト格子の格子定数である.3中性子回折データを用いて精密化した結晶学パラメーターは放射光X線回折によるものと一致した.4精密化した格子定数と原子座標はDFT計算により最適化した構造のものとも一致した.また,5陽イオンのBVSは形式酸化数とよく一致し,6新構造に対して計算した自発分極は実測値と矛盾しない.1~6の結果は決定した構造の妥当性を示している.Pmc2 1 AgNbO 3ではNbおよびAgが,配位している酸素の重心位置から変位している(図2aの矢印).従来の間違ったPbcmモデルにおいてもNbおよびAgは変位しているが,反平行な変位となって中心対4.フェリ誘電体ニオブ酸銀AgNbO 3の構造決定大きな自発分極と高い誘電率ならびに圧電性を示すPbTiO 3系セラミック強誘電体がさまざまな電子デバイスとして利用されているが,有毒な鉛を含む.そのため鉛を含まない誘電体の開発が活発に行われている.ニオブ酸銀AgNbO 3は高い電圧を印加したときに52 mC cm-2というきわめて大きな分極を示し,17)光触媒活性も示す18)有望な非鉛材料である.しかしながら,その正確な構造は50年以上わかっていなかった.AgNbO 3の単結晶19X線構造解析の文献)で報告された中心対称の空間群Pbcmでは自発分極を説明できなかったのである.著者らのグループは,放射光X線回折,中性子回折,電子回折,収束電子回折およびDFT計算によりAgNbO 3の結晶構造と電子状態を研究し,以下のことがわかった.20)-22)1AgNbO 3の電子回折および収束電子回折実験により,空間群が非中心対称の直方晶系(斜方晶系)Pmc2 1であ日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)図2DFT計算によるPmc2 1 AgNbO 3の構造と電子密度分布.(Structure and electron-density distributions ofPmc2 1 AgNbO 3 through DFT calculations. ReprintedfromRef.22withpermissionofAmericanChemicalSociety.)(a)電子密度の0.6A-3における等値面.bc面上(b)x=3/4,(c)x=1/2,(d)x=0,(e)x=3/8,(f)x=1/8における電子密度分布.矢印は酸素原子の重心位置からの陽イオンの変位.(a)の赤い矢印はAgの変位の向きと量を,(a)の黒い矢印はNbの変位の向きと量を示す.(c-f)の赤い矢印は陽イオンのc軸方向の変位の成分の向きを,(b-d)のピンクの矢印はb軸方向の変位の成分の向きを示す.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.15