ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

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概要

日本結晶学会誌Vol57No1

八島正知表1材料の生成相と原子構造を調べるためのいくつかの実験および理論計算技法.(Selected experimental andtheoretical techniques for the investigation of the existing phase and atomic structure of materials.)*技法何がわかるか?利点制限(放射光)X線回折(ブラッグ反射)中性子回折(ブラッグ反射)透過型電子顕微鏡を用いた電子回折ラマン散乱密度汎関数理論(DFT)計算結晶相,格子定数,原子座標,ADP**,占有率,電子密度結晶相,格子定数,原子座標,ADP,占有率,中性子散乱長密度結晶相,格子定数***,微構造,空間群結晶相,ラマンシフト,力の定数格子定数と原子座標,生成エネルギー,電子密度,電子状態密度,フォノン,弾性定数試料環境制御(温度,ガス雰囲気など),電子密度解析により化学結合を研究可能,高角度分解能の装置もある,未知構造解析に適している試料環境制御(温度,ガス雰囲気など),軽原子の構造パラメーターと不規則性,中性子散乱長密度解析により可動イオンの拡散経路,不規則性,熱振動を研究可能,同じ席にいる酸素と窒素原子の占有率を精密化可能制限視野回折,暗視野像,弱い回折を検出可能,EDSやEELS****を併用して局所的な化学組成と電子状態を研究可能,試料温度可変試料環境制御(温度,ガス雰囲気など),陰イオンに敏感,中距離秩序情報量が多い.局所構造(同じ席に存在する原子ごとの位置と環境と電子状態)がわかる時間と空間についての平均周期構造,軽原子の構造パラメーターと不規則性,粉末回折では配向と粗大粒子(特に高温環境下),電子雲の広がり時間と空間についての平均周期構造,多量のサンプルが必要,中性子源:加速器または原子炉が必要薄膜,薄片や微粒子に対象が限られる,時間平均周期構造,軽原子の構造パラメーターと不規則性,低角度分解能,電子線による試料の損傷構造精密化困難.力の定数の解析は容易でない.時間と空間の平均構造.0 Kでの安定構造を計算,スーパーセルのサイズ,f電子や電子相関の扱いは発展途上,フォノンは調和モデルで計算*文献1)の表3にも類似した表がある.**ADP:原子変位パラメーター.***収束電子回折を使えば構造パラメーターもわかる.****EDS(EDX):Energy Dispersive X-ray Spectroscopy;EELS:Electron Energy Loss Spectroscopy.電子密度分布,中性子散乱長密度分布およびBVS図の描画にはVESTA 12)を用いた.3.可視光応答型光触媒LaTiO 2 Nの構造決定と電子密度解析クリーンで再生可能な水素製造の新たな可能性を示す可視光応答型光触媒であるぺロブスカイト型LaTiO 2Nの結晶構造の研究を説明する.13),14)ペロブスカイト型化合物の空間群を正確に決めるには粉末回折データだけでは不十分である.実際,LaTiO 2Nのリートベルト解析では空間群候補のうち2~3個までしか絞ることができなかった.そこでLaTiO 2Nの空間群を決めるために制限視野電子回折(SAED)実験を行い,中性子粉末回折測定および放射光X線粉末回折測定と密度汎関数理論(DFT)計算によりLaTiO 2Nの結晶構造を包括的に研究した.13),14)その結果,LaTiO 2Nの空間群は従来提案され__ていたP1(I1)15),16)ではなく,Immaであることがわかった.13),14)LaTiO 2Nのような酸窒化物では酸素と窒素の占有率を正確に決めるために中性子回折を利用するとよい.中性子および放射光X線回折データのリートベルト解析で精密化した占有率から計算したLaTiO2Nの化学組成は,それぞれLa1.00(3)Ti1O2.00(13)N1.00(13)とLa1.0000(17)Ti 1O 2.00(17)N 1.00(17)であった.また,走査型電子顕微鏡に搭載されたエネルギー分散型X線分光装置(SEM-EDS)により見積もられたLaTiO2Nの化学組成はLa1.3(2)Ti1.0(1)O 2.1(5)N 0.64(23)であった.これら3つの化学組成は±3σの範囲で組成式LaTiO 2Nと一致した.σは「標準偏差」である.また,赤外分光により,OH基やアンモニアがない図1LaTiO 2Nの(a)精密化した結晶構造,(b)MEM中性子散乱長密度の等値面,(c)MEM電子密度の等値面,(d)DFT価電子密度の等値面.13),14)((a)Refined crystal structure, isosurfaces of(b)MEMneutron scattering length density,(c)MEM electrondensity and(d)DFT valence electron density ofLaTiO 2N. 13),14)Reprinted from Refs. 13 and 14 withthe permission from Royal Society of Chemistry andCrystallographic Society of Japan.)ことも確認した.LaTiO 2Nの結晶構造はTi(O,N) 6八面体とLaからなる(図1a).精密化した構造のLa,Ti,頂点(apical)陰イオン(O1,N1),エクアトリアル(equatorial)陰イオン(O2,N2)の酸化数はBond Valence Sumによりそれぞれ3.0,4.1,-2.4,-2.3と見積もられた.これはLa 3+14日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)