ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

ページ
21/94

このページは 日本結晶学会誌Vol57No1 の電子ブックに掲載されている21ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol57No1

特集マルチプローブ研究が拓く構造研究の新時代2.構造物性分野におけるマルチプローブ研究日本結晶学会誌57,13-19(2015)中性子とX線回折法を含む多面的アプローチによるセラミック材料の結晶構造,電子密度分布とイオン拡散経路の研究東京工業大学大学院理工学研究科物質科学専攻八島正知Masatomo YASHIMA: Crystal Structure, Electron-Density Distribution and Ion-Diffusion Pathway of Ceramic Materials Investigated by Multiple Approaches IncludingNeutron and X-ray Diffraction MethodsCrystal structure is the fundamental information in the materials science, chemistry, physicsand geoscience. Electron-density distribution of ceramic materials is important, because most ofmaterial properties are governed by the electronic states. Ion-diffusion pathway is useful to understandthe ion conduction mechanism. In the present paper the author briefly reviews his group’s recentresearch works on the crystal structure, thermal expansion, electron-density distribution and iondiffusionpathway of some ceramic materials investigated by multiple approaches such as synchrotronX-ray powder diffraction, neutron powder diffraction, electron diffraction, first-principles electroniccalculations, maximum-entropy method(MEM)and bond valence method. The crystal structureshould be examined by multiple methods, because invalid structure sometimes gives good Rietveld fit.1.緒言物質科学,化学,物理学および地球科学においてセラミック材料および無機物質の結晶構造は基本的な情報である.材料特性のほとんどは電子状態に支配されるので材料の電子密度分布は重要である.イオン伝導機構の理解にとって,イオン拡散経路は重要である.この短い総説では,セラミック材料の結晶構造,電子密度分布,イオン拡散経路,熱膨張に関する著者らの研究を中心に紹介する.特にX線回折と中性子回折を中心に,電子回折,第一原理計算など結晶構造解析における多面的なアプローチ(表1 1))に力点を置いて説明する.また,最大エントロピー法(MEM)および結合原子価(BondValence)法など多面的なアプローチ1)によるイオン拡散経路の研究をいくつか説明する.2.物質構造研究における多面的アプローチ単結晶X線構造解析では,半ば自動で結晶構造を導くことができる.一方多くのセラミック材料は微粉末で得られることが多く単結晶育成が容易ではないことがある上に双晶も度々生じるので,粉末回折データを測定して構造を決めなければならないケースが多い.その際には,精密化した結晶構造が正しいかどうかを,単結晶構造解析に比べて,より一層慎重に検討しなければならない.粉末回折データから未知構造解析を行う場合には,通常X線粉末回折データまたは放射光X線粉末回折データを用いることが多い.空間群の候補を絞り決定す日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)る,あるいは単相であるか多相であるかを調べるには,電子回折や収束電子回折,暗視野像を使うと良い.特に対称心の有無の判断には,収束電子回折のほか,SHG(Second Harmonic Generation)や誘電率などの物性を測定することが有効である.セラミック材料の多くは希土類などの重原子と酸素,水素,リチウムなどの軽原子の複合系である.歪んだぺロブスカイト型酸化物のように軽原子の微小な変位(位置の変化)により対称性が変わる場合も多い.軽原子の位置,占有率,ならびに原子変位パラメーターを正確に精密化するためには,軽原子の散乱能が相対的に高い中性子回折を用いることが有効である.2)最終的な精密化で得られた結晶構造の各サイトの結合原子価の総和(BVS:Bond Valence Sum)が期待される酸化数と一致することを確認するのはもちろんのこと,密度汎関数理論(DFT)計算により最適化された構造と一致することを確認しておくと心強い.本記事で紹介する研究で用いた中性子粉末回折装置は原子力機構に設置されている東北大金研のHERMES,3)豪州原子力科学技術機構のBragg研究所のEchidna,4)大強度陽子加速器施設J-PARCの物質・生命科学実験施設MLFのBL20に設置されているiMATERIA,5)放射光回折実験は高エネルギー加速器研究機構KEKの放射光科学研究施設PFのBL-4B2に設置されている多連装粉末回折計,6)SPring-8のBL02B2 7)およびBL19B2 8)に設置されているデバイ-シェラーカメラである.リートベルト解析にはRIETAN-FP 9)またはZ-Code 10)を,最大エントロピー法MEMの解析にはPRIMA 11)を用いた.結晶構造,13