ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

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概要

日本結晶学会誌Vol57No1

山浦淳一,松石聡,細野秀雄,飯村壮史,平石雅俊,小嶋健児,平賀晴弘,門野良典,村上洋一いて考察した.前提条件は,超格子ピークが現れず,かつ,格子が菱形に歪むことである.この条件に合う高温相P4/nmmの部分群は,空間反転対称を有するCmmeと反転対称を失っているAem2の2通りに絞られる.両者の違いは正方晶における220反射の直方晶における分裂後のプロファイルを観ることで見分けることができる.図4dは,x=0と0.51における220反射のプロファイルである.分裂後のプロファイルに対してフィッティングを行っている.添え字のOは低温相の指数であることを表している.両者の違いは明確で,過去の報告でCmmeと確定しているx=0では分裂後の2つのピーク強度はほぼ等価であるのに対して,x=0.51では,非等価になっている.これらは,以下の構造因子を見ると理解できる.単純化のため水素の寄与は除いてある.F(400 O)=F(040 O)=4f La+4f Fe+4f As+2f O(Cmme)F(040 O)=4f La+4f Fe+4f As+2f O(Aem2)F(004 O)=4f La+3.8f Fe+3.9f As+2f O+1.2if Fe-1.0if As-0.1if O(Aem2)Cmmeではすべての原子位置がx,y方向で特殊位置にあるため,両者の構造因子が等価になるのに対して,Aem2では対称中心の破れにより分裂後の構造因子が非等価になる.19)したがって,x=0.51における低温相の空間群は,Aem2であると考えられる.この結果を用いて,低温相の構造をRietveld解析(RIETAN-FP)29)で決定した.図4eに鉄とヒ素原子のみ抜き出した構造をx=0の結果も含めて,転移前後の原子変位とともに描いてある.x=0での転移に伴う変位はヒ素原子の0.01 Aのみである.鉄原子は対称性の制約によって動かない.一方,x=0.51では,相転移前後で鉄とヒ素原子が逆位相で鉄原子面内の一方向へ0.06~0.07 A変位する.このような変位が,反転対称中心を失う起源であると思われる.空間反転対称中心を失う構造転移は,鉄系超伝導体で初めての例であり,このような構造の揺らぎと超伝導の関連があれば非常におもしろいと思っている.x=0.51での格子定数の温度依存性を図4fに示した.ここから正方晶-直方晶転移がT s~95 Kで起きていることがわかる.最低温における直方晶度(a-b)/(a+b)は0.19%で,この値はx=0の0.24%,BaFe 2As 2の0.40%に比べて小さい値となっている.27),28),30)c軸長を見るとT s以下から負の熱膨張を示しており,x=0やほかの鉄系超伝導体物質では観測されていない現象である.このc軸の負の熱膨張については,鉄d軌道のスピン揺らぎに起因する電気四重極揺らぎとの関連が指摘されている.31)構造転移点T s~95 Kは,磁気転移点T N=89 Kと比較して5~6 Kほど高い温度から現れているように見える.鉄系超伝導体の母相における構造転移は,1111系のように磁気転移よりかなり上の温度(20 K程度)から現れるものと,122系のように磁気転移と同時に現れるものの2通りに分けられる.前者は,両転移が二次転移的,後者は,一次転移的に現れる.今回のLa1111高ドープ系では,構造転移,磁気転移の関係に関して,1111系と122系の中間的な性質を有しているように思われる.4.LaFeAsO 1?x H xの相図以上のLaFeAsO 1-xH xにおける結果を図5の温度-水素置換量相図に示す.水素低濃度側から構造転移を伴う磁気秩序第1相(AF1母相,x<0.04),超伝導第1相(SC1,0.04<x<0.2),超伝導第2相(SC2,0.2<x<0.45),構造転移を伴う磁気秩序第2相(AF2,0.40<x<0.51)となっている.SC2とAF2の共存相(0.40<x<0.45)も描いてある.また,超伝導転移点の最大値は,高ドープ側のSC2のほうがTc=36 KとSC1のTc=26 Kより3割以上高い.AF2相の磁気転移温度の最大値は,AF1相のものより約50 K低い一方,AF2相での鉄の磁気モーメント1.2μB/Fe(x=0.51)は,AF1相の0.63μB/Fe(x=0)に対して倍近い値になっている.構造転移を伴う反強磁性金属相であるAF1相は超伝導相のすぐ近傍にある.一方のAF2相もAF1相同様の状況である.このことから,われわれは,このAF2相も母相であると考えた.通常,母相とはノンドープ体のことを指し,それゆえに電子相関,磁気相関の強い状態となっているが,鉄系超伝導体物質における“母相”とは,ノンドープ近傍以外でも電子相間,磁気相関が強まるある種の特異点であると定義できるとした.こう定義すれば,SC1とSC2の2ドーム構造も,SC1のオーバードー図5LaFeAsO 1-xH xの相図.反強磁性秩序相(AF1,AF2),超伝導相(SC1,SC2),AF2-SC2共存相が示してある.丸が磁気転移点,四角が構造転移点を表している.(Phase diagram of LaFeAsO 1-xH x.Antiferromagneitc ordered phases(AF1, AF2),the superconducting phases(SC1, SC2), and thecoexisting phase of AF2 and SC2 are shown. Circlesand squares represent the magnetic and structuraltransitions, respectively.)10日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)