ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

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概要

日本結晶学会誌Vol57No1

山浦淳一,松石聡,細野秀雄,飯村壮史,平石雅俊,小嶋健児,平賀晴弘,門野良典,村上洋一図3(a)LaFeAsO 0.49H 0.51の10 Kでのパルス中性子線回折パターン.指数は正方晶のもの.記号は,核ブラッグ反射(N),磁気ブラッグ反射(M)を表す.Rietveld解析における観測値と計算値の差を下側の曲線に示してある(R wp=3.85%).(b)x=0.45,0.51に対する磁気ブラッグ反射強度の温度変化.x=0.45の低温データはμSR測定(周波数2×MVFに比例)から規格化して得ている.(c)直方晶相での既約表現の基底に基づくスピン配列.uは手前,dは奥へスピンが向いている.(d)Ψ2とΨ4に対するリートベルトパターンフィッティングの様子.矢印が磁気ブラッグ反射.((a)Pulsed neutron diffraction pattern of LaFeAsO 0.49H 0.51 at 10 K. Indices are based on thetetragonal cell. Marks represent the nuclear Bragg reflection(N)and the magnetic Bragg reflection(M)Residual betweenthe observed and the calculated data in the Rietveld analysis are described in the lower curve(R wp=3.85%).(b)Temperature dependence of the intensity on the magnetic Bragg reflection for x=0.45 and 0.51. The low-temperaturedata for x=0.45 are estimated by the normalized data(∝(muon frequency)2×MVF)fromμSR measurement(c)Spinarrangements based on the basis functions of irreducible representations in the orthorhombic phase. u and d mean the spindirection to this side and the other side, respectively.(d)Rietveld pattern fitting forΨ2 andΨ4. Arrows represent themagnetic Bragg reflection.)編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.Ψ6はm ab//Q ab,Ψ2,Ψ4はm ab⊥Q ab,Ψ3,Ψ5はm c⊥Q abとなる.添え字は,各ベクトルがab面内かc軸に沿っているかを表している.また,層間方向にはすべて強磁性的配列となっている.これらのうち,回折強度パターンにほぼ適合するのはΨ2,Ψ4のm ab⊥Q abのスピン配列のみである.Ψ2,Ψ4両者の差は,直方晶に歪んだ面内でどちらの軸方向に向くかといった違いだけであるが(構造変化については後程述べる),幸いにも図3dに示すようにスピンの方向まで含めて決定することができた.スピンは直方晶面内の短軸に向いているΨ2となっている.このような見分けが一番面間隔の大きい磁気ブラッグ反射でも可能なのは,パルス中性子源を用いた高分解能回折計のなせるわざであろう.最終的に,鉄原子上の磁気モーメントは,1.2μB/Feの値が得られた.x=0.45でも同様のスピン配列で,モーメントは0.8μB/Feとなっている.以上の過程では,FullProfを用いてRietveld法による結晶構造/磁気構造解析を行っている.25)このスピン配列は反強磁性ストライプ型と呼ばれ,鉄系超伝導体の母相でよく観測されるものである.表1に示したように,ほかの1111系,122系母物質の面内のスピン配列は例外なくm ab//Q abのタイプになっている.26),27)一方,LaFeAsO 1-xH xの高ドープ側で得られたm ab⊥Q abスピン配列は非常に珍しい.単斜晶ではあるが,11系のFe 1.068Teもm ab⊥Q ab型の配列となっている.28)また,m ab//Q abでは,鉄の磁気モーメントは0.2~0.9μBと小さく,m ab⊥Q abでは,1.2~2.3μBと高い値をとっており興味深い.x~0.5(鉄はd 6.5)付近では母物質から大きく離れてキャリアドープされているので,電子相間,磁気相関はかなり弱くなっているはずであるが,実際には磁気秩序相が現れ,磁気モーメントも増大し,より強相関になっているという予期しない結果になった.8日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)