ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No1

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概要

日本結晶学会誌Vol57No1

X線,中性子,ミュオンを用いた鉄系超伝導体の研究図2(a)ミュオンスピン緩和法測定図.(b)LaFeAsO 1-xH x(x=0.45)でのミュオンスピン偏極の時間スペクトル.(c)磁性体積分率(MVF)の温度変化.(d)磁性体積分率と超伝導体積分率(SVF)の水素置換量依存性.((a)Diagram of the muon spin relaxation measurement.(b)Time spectra of muon spin relaxation on LaFeAsO 1-xH x(x=0.45).(c)Temperature dependence of magnetic volume fraction(MVF).(d)Hydrogen content dependence of MVFand superconducting volume fraction(SVF).)る方向で見ていくと,T Nと磁性体積分率両方が減少していくことがグラフから見てとれる.このように求めた最低温度での磁性体積分率の水素置換量依存性を図2dにプロットした.高置換側から見ていくと,磁性体積分率は,x=0.51~0.45までほぼ100%であったものが,x=0.42から減少し最後にx=0.40付近で消失している.一方,磁化率測定から求めた超伝導体積分率も同グラフにプロットすると,x=0.40付近から減少しx=0.45付近でほぼゼロとなっていることがわかる.この図から,0.40<x<0.45の領域における反強磁性と超伝導の共存域の存在が示唆される.このような磁性と超伝導の共存は,鉄系超伝導体を含めた多くの高温超伝導体で観測されており,反強磁性相と超伝導の密接な関係を示す1つの証拠となっている.21)ただし,LaFeAsOの母相と超伝導第1相の間では観測されていない.22)この共存相の空間スケールを計算してみる.x=0.45での磁気モーメント0.8μB,μSR測定での検出限界1 mTとすると,ミュオンと磁気モーメント間の双極子相互作用を考慮し,磁性ドメインのサイズは最大2 nmと算出できる.23)したがって,共存というよりナノ相分離と呼んだほうがよいかもしれない.日本結晶学会誌第57巻第1号(2015)3.2中性子線回折による磁気構造決定ミュオンの結果を得て,われわれは,J-PARCのパルス中性子源を用いた超高分解能粉末回折計(SuperHRPD)と大強度粉末回折計(NOVA)で実験を行った.図3aは,LaFeAsO 1-xH x(x=0.51)の10 Kにおける粉末中性子線回折パターンである.矢印で示したところが低温で新たに出現したピークで,X線回折で観測できないことから磁気ピークであると考えられる.出現した磁気ブラッグピークの指数から,磁気伝搬ベクトルは,正方晶をもとにした場合q=(1/2,1/2,0)であると確定した.x=0.45でも同様の結果となっている.図3bにx=0.45,0.51における(1/2,1/2,0)磁気ブラッグ反射強度の温度依存性を示す.磁気反射強度は,それぞれ,T N=75 K(x=0.45)と89 K(x=0.51)から二次転移的に次第に立ち上がっていくことがわかる.これらはミュオンの結果とほぼ一致している.19)磁気転移が二次転移の場合,判明している磁気変調ベクトルと空間群をもとに群論的考察から磁気構造の候補を絞り込むことができる.24)鉄原子上のスピン配列を表す基底は,図3cに示したΨ1~Ψ6で,スピンの向きをm,反強磁性の磁気伝搬ベクトルをQとすると,Ψ1,7