ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

IUCr2014参加報告く, Metal Organic Framework(MOF)など結晶学に関連した化学分野のセッションも多く見受けられました.今年は世界結晶年に制定されましたが,結晶学が科学のさまざまな研究分野で必要な学問であることを感じ取れました.今回の会議では,全体で112テーマのマイクロシンポジウムが企画されており, 8テーマのパラレルセッション形式で口頭発表は行われました.同日に行われたマイロシンポジウムの研究分野が類似していたため,聴講したい発表を逃すこともたびたびあったのが残念でした.まず,最初に“Pair Distribution Functions: Measurementand Interpretation(MS55)”のセッションについて,報告させていただきます.近年,触媒や電池材料などの研究では,粉末回折データを用いたPDF解析が盛んに行われていますが,アメリカのアルゴンヌ国立研究所にあるAdvancedPhoton SourceのK. Chapmanらは,時間分解, in-situ,operando測定によるPDF解析について報告されました.その一例として, operando測定によるPDF解析と固体Li-NMRスペクトルを組み合わせることにより,高容量,高電位を目指したFeOFを正極材料とする蓄電池の充放電過程の電気化学反応について明らかにされました.彼らのグループは,充放電過程を直接観察するために,電極を組み込んだセルを作製し, operando測定によるPDF解析に成功しました.その結果,蓄電池の充放電過程中に,鉄電極付近でFリッチ相とOリッチ相とが,連続的に反応を起こすことを明らかにされました.このほかにも数件の発表がありましたが, X線回折データだけでなく,中性子線などのデータを組み合わせて解析することにより,より精密な局所構造の解析が行えるように感じました.本会議の後,建設中のブルックヘブン国立研究所のNSLS-IIを訪問する機会があったのですが,粉末回折ビームラインを担当しているEric Dooryheeの話によれば,建設中のビームラインは,non-ambient条件下での動的プロセスをPDF解析により解明するユーザーをターゲットとしているようでした. PDF解析を行うためには,統計精度が高く, q>30 A ?1の高分解能データを精密に測定することが理想であるため,高エネルギーX線と大面積のフラットパネル検出器を用いた実験を計画していました. PDF解析は,結晶性物質中に存在する「結晶周期性をもたない」構造の歪み(局所構造歪み)を観測することができるため,今後,物質材料の解析の1つの手法として急速に発展していくと思われます.次に,“High Resolution Charge Density using SR(MS89)”のセッションについて報告します.このセッションでは,放射光X線を用いた高分解能データによる電子密度解析についての発表がありました.近年,コンピュータの発展に伴い,かつては現実的な計算時間ではなかった波動関数に基づいた電子軌道を分子モデルとして解析を行う波動関数モデル法によるヒルシュフェルトの密度解析が注目を集めています.本セッションでは,西オーストラリア大日本結晶学会誌第56巻第6号(2014)学のS. Grabowskyは,水素結合を有する有機化合物の単結晶試料について,波動関数に基づいたヒルシュフェルト原子モデルによる構造精密化に関して発表されました.本手法により得られた構造精密化の結果は,同試料の中性子線回折データからの構造解析の結果と矛盾しておらず, X線精密構造解析から水素原子に関する議論が可能であることを示されました.かつて,時間を掛けてワークステーションで行っていた単結晶構造解析が,現在は,パソコンで行えるようになったように,波動関数を原子モデルとした構造解析が,少し身近になったような感じがしました.最後に,“Maximum Entropy in Crystallography(MS03)”のセッションについて報告します.本セッションでは,MEMに基づき解析された電子密度分布を用いた新しい手法などの報告がありました.筑波大学の西堀教授は,MEMを用いた精密構造解析によって解明された多孔性配位高分子内に存在する水素のオルト・パラ変換に関する発表が行われました.本研究では, Ewald法による核密度分布とMEMに基づく電子密度分布から実験的に静電ポテンシャルを見積もられました.さらに,その静電ポテンシャルマップから水素の電場ベクトルを定量的に見積もったところ,高電場状態で水素のオルト・パラ変換が生じていることを実験的に明らかにされました.また,オーフス大学S. Christensenは,熱電材料であるPbX(X=S,Se, Te)について,放射光X線および中性子線のデータを用いたNuclear Enhanced X-ray Maximum Entropy Method(NEXMEM)ついて報告されました.本手法を用いることにより, PbX内のさらなるディスオーダー構造がNEXMEMにより明らかになり, PbXの熱電材料としての高効率物性を理解することができました.本セッションでも,放射光X線による電子密度分布と中性子線による核密度分布を組み合わせて解析することにより,より詳細な情報を得る手法の開発が行われていることが理解できます.今後,放射光施設と中性子施設との連携が物質研究を行ううえで重要な役割を果たすことが推察されます.今回の会議では, 3つのXFELに関するマイクロシンポジウムが設定され, 1つはコヒーレント光を用いたイメージング, 1つは時分割分光測定,もう1つはタンパク質構造解析でした.いずれの分野においても,精力的に研究が行われており,今後,ほかの分野においてもXFELによる新しい展開が期待されます.次回のIUCr2017の開催地は,インドのハイデラバードですがその頃には, XFELと蓄積リングが同じサイトにある播磨から世界に先駆けてSACLAとSPring-8を同時に用いた研究成果が報告されることを期待します.IUCr2014参加報告東北大学多元物質科学研究所坂倉輝俊IUCr2014はカナダのモントリオールにて8月5日から415