ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

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概要

日本結晶学会誌Vol56No6

カーボンナノチューブの筒内平滑曲面:炭素性分子ベアリングの構造化学精密な原子位置決定にまでは至らなかった.そこで,より精度の高いデータを得るために放射光X線を使った回折実験を実施した.空の[4]CCでは, KEKフォトンファクトリーBL-1Aビームラインを,分子ベアリング[4]CC⊃C 60では, SPring-8 BL41XUビームラインを活用させていただいた.高輝度X線源によりS/N比が改善しただけでなく, 10~30μm程度まで焦点を絞った線源が利用可能となったことで,高結晶性ながら微細な結晶からの回折を測定することができた.加えて,大画面検出器を活用することで総露光時間を短縮でき, X線損傷を抑えた良質な回折データを得ることができた.構造解析は,適宜,電子密度をモデル構造にマッピングし,多くのディスオーダーが存在する複雑な構造の妥当性を注意深く確認しながら進めた.はじめに空の[4]CCの分子構造を紹介する(図2a).[4]CCは, sp 2炭素曲面が筒状となった構造であり,ほぼ赤道上にある炭素原子で測定した直径が14.03±0.04 Aであった.この分子は,カーボンナノチューブの(12,8)というキラル指数に属する構造をもっているのだが,その幾何学的理想構造での直径13.83 Aに近い値である. 8)隣り合うクリセニレン間の二面角は平均18.48±0.16°と芳香族環同士を連結したビアリール構造間の二面角としては小さいものであった.充填構造に目をうつすと(P)-らせん体と(M)-らせん体の2つの鏡像体は,互いの直鎖アルキル鎖を内包しながら絡み合う「thread-in-bead」構造を取っていた.以前,われわれのジグザグ型単層カーボンナノチューブ分子の結晶解析で見いだされた充填構造に類するものであったが, 9) 1つの鏡像体が2つの鏡像異性体と絡み合うことで,二次元ネットワークを形成し,さらにその結果,単一の鏡像体がカラム状に連なる点が従前の構造とは異なっていた.次に分子ベアリング[4]CC⊃C 60の構造を紹介する(図2b).今回,(M)-らせん体のみからなる単一鏡像異性体の結晶が得られ,その空間群をキラルなP3 2と決定した.結晶内に共存する溶媒分子が塩素を含む塩化メチレンであったことが幸運で, 0.70850 Aと比較的短い波長を使いながらも,フラックパラメーターが0.13(13)と定まり,らせん型(12,8)キラル指標の[4]CC分子の絶対配置が(M)-らせんであることを決定することができた.これまでは,実験からの円偏光二色性スペクトルと時間依存密度汎関数法計算による理論スペクトルを比較することで絶対立体配置を推定していたのだが,この結果により有限長カーボンナノチューブ分子の絶対立体配置を実験的に初めて確定することができたのである.従前のスペクトル分析と含めて今後のカーボンナノチューブ研究にとって,重要な情報となると考えている.[4]CCの分子構造は, C 60を内包することで変形していたが,その変化はわずかなものであった.例えば,二面角は11.64±2.18°であり,直径は13.95±0.01 Aとやや小さくなることで理論値13.83 Aにほぼ合致した.この変化は,図からもわかるように分子全体がより完全な円筒形に近づいたことに由来している.充填構造では,当然ではあるがthread-in-bead構造が, C 60により阻まれていたが,アルキル鎖同士が入れ子構造となることで,カラム状に分図3[4]CC⊃C 60分子構造詳細.(Detailed molecular structures of[4]CC⊃C 60)(a)ディスオーダーがあっても動かない炭素原子を中心として4つのディスオーダーを重ね描きした.(b)C 60の各ディスオーダーの個別図.(c)カラム状の充填構造.動かない原子を球で描いた.左図には溶媒排除表面を付している.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.日本結晶学会誌第56巻第6号(2014)407