ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

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概要

日本結晶学会誌Vol56No6

佐藤宗太,磯部寛之があった.溶液中で内部のフラーレンが回転することである.単なるC 60を包接した場合には自由回転, C 60上に有機置換基を導入すれば一軸回転が実現された. 5)内部のフラーレンが「回転子(ジャーナル)」,外部の[4]CCが「ベアリング」となる機械的な動きをもつ「分子ベアリング」となることが明らかにされたのである.ごく最近,われわれは,この「分子ベアリング」の単結晶構造解析に成功した. 7)本稿では,そこから見えてきたピーポッドの分子構造と,固体での動的挙動という興味深い現象を詳解する.2.「分子ベアリング」の単結晶構造解析2.1単結晶X線構造解析からの分子構造「分子ピーポッド」の分子構造を明らかにするために,単結晶X線構造解析を試みた.はじめにフラーレンを含まない空の[4]CCラセミ体(鏡像体混合物)の結晶化に成功した.さまざまな結晶化条件を検討した結果,塩化メチレン(沸点40℃)とメタノール(沸点65℃)との混合溶媒に溶解させ,徐々に塩化メチレンを揮発除去して貧溶媒の割合を増加させることで,単結晶が得られることを見いだした.同じ条件は, C 60を含んだ分子ベアリングにも有効であり,この場合には(M)-らせん性をもつエナンチオマー(単一鏡像体)の単結晶を得るのに成功した.空の[4]CCでも分子量が1,500を超え,分子ベアリング[4]CC⊃C 60では分子量が2,200を超える.高分解能な回折データを得ることが難しい大きな分子システムであるのみならず,炭素と水素を主要構成元素とすることが回折強度およびS/N比の低下を招くと予想された.さらに,マウントした結晶から,高揮発性の溶媒分子が失われていくことで,結晶性の劣化までが引き起こされることがわかり,解析に至るまでは,さまざまな試行錯誤を余儀なくされた.最終的には,抗凍結剤(クライオプロテクタント)を使ったループへのマウントにより,迅速に液体窒素温度で瞬間凍結すれば,揮発性溶媒分子の問題を回避できることを見いだした.回折データ・強度の問題は,最終的には,KEKおよびSPring-8の最先端装置の恩恵にあずかることとなった.当初行った市販回折装置での予備検討でも,回転対陰極型Cu線源とピクセルアレイ検出器(PAD)との組み合わせを用いた最新鋭の装置(リガク, XtaLAB P200)により,一応の分子構造の決定までは到達した.しかし,空の[4]CCでは,直鎖アルキル鎖のディスオーダー,分子ベアリング[4]CC⊃C 60では, C 60のディスオーダーによって,図2単結晶X線構造解析から得られた分子構造と充填構造.(Molecular and packing structures from X-ray diffractionanalysis.)分子構造では[4]CCの筒状炭素原子をORTEP図(30%probability)で示している.(a)空の[4]CC分子.(P)体と(M)体の2つの鏡像異性体は,隣接しながら,それぞれ別のカラムを形成している.電子版では(P)体を赤,(M)体を青で色分けして示している.(b)(M)-(12,8)-[4]CC⊃C 60の分子構造と充填構造.アルキル鎖が入れ子構造を取ることでカラムが形成されている. C 60は4つのディスオーダーのうちの1つ(占有率25%)のみを示している.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.406日本結晶学会誌第56巻第6号(2014)