ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

日本結晶学会誌56,405-410(2014)最近の研究からカーボンナノチューブの筒内平滑曲面:炭素性分子ベアリングの構造化学東北大学, ERATO磯部縮退π集積プロジェクト佐藤宗太,磯部寛之Sota SATO and Hiroyuki ISOBE: Slippery Smooth Surface inside Finite Carbon NanotubeMolecules: Structural Study of A Carbonaceous Molecular BearingCarbonaceous entities possessing tubular and spherical shapes spontaneously form a host?guest complex. This supramolecular complex, so-called a peapod, is unique among host?guestpairs in that it is assembled solely by van der Waals interactions at the concave?convex interfaceof sp 2 -carbon networks. Recently, a molecular version of this supramolecular systemrevealed the presence of the extremely tight association concomitantly with the dynamic motionsof the guest in apolar media. An atomic-level structure of the molecular peapod is revealedby a crystallographic method with synchrotron X-ray source to show the presence of aninflection-free surface inside the tubular molecule. Enjoying rotational freedom at this smoothsurface, the guest fullerene molecule rolls dynamically even in the solid state.1.はじめに1998年,ネイチャー誌に「さやえんどう」のような奇妙な物質の電子顕微鏡写真が発表された.単層カーボンナノチューブの「さや」のなかに,フラーレンの「豆」が収まったピーポッド(さやえんどう)の発見である. 1)湾曲したsp 2炭素面のみからなるこの物質は,物性物理をはじめとした多くの分野の研究者の興味をかき立て,いまなお盛んにその研究が行われている.一方で,カーボンナノチューブが「分子性物質」ではなく,「化学種」であることが, 2)その構造化学的理解を阻んできた.手に取ったカーボンナノチューブの黒い粉のなかには,長さや巻き方が異なる多種多様な構造が含まれており,その研究からは「物質」としての理解を進めることがきわめて困難なためである.物質理解の基盤とも言うべき構造化学は,もちろん理論研究による検討がなされてきたが,実験からの実証・検証はほとんど進展してこなかったのである.この数年,「単層カーボンナノチューブの断片/部分構造」と理解し得る分子が化学合成の力により登場し,その構造化学が急速に進展しようとしている.湾曲したsp 2炭素からなる「分子」の輪のなかにフラーレンが内包された「分子ピーポッド」は,京都大学の山子らによりベンゼンが連なった輪状分子「[10]シクロパラフェニレン([10]CPP)」を用いた物質[10]CPP⊃C 60として2011年に初めて登場した(図1). 3)活発な研究情勢を反映し,翌年には米国のJastiらにより,その単結晶構造解析が報告されている. 4)われわれは, 2013年に「[4]シクロクリセニレン([4]CC)」が,フラーレンと分子ピーポッ日本結晶学会誌第56巻第6号(2014)ド[4]CC⊃C 60を形成することを見いだし報告した. 5),6)これら[10]CPPと[4]CCの構造は,一見,よく似ているように見えるが,実は大きな違いがある.前者は,芳香環が室温で回転する柔軟な輪状構造をもち,後者は,芳香環が回転しない「壁」をもつ筒状構造をもっているのである.ちなみに,いまだこれから議論が始まろうかという段階ではあるが, 2) sp 2炭素曲面からなる「壁」という構造的特長を捉え,われわれは自身の一連の「筒状分子」を「有限長単層カーボンナノチューブ分子」と呼んでいる.この構造の剛直性の違い,つまり「壁」の有無は,分子ピーポッドの形成上での大きな差となって表れる.[4]CCがC 60を包接する際の会合定数は,[10]CPPのそれの実に百万倍にも達するのである.[4]CCでわれわれが記録した会合定数は,現時点でのフラーレン包接会合定数での世界最高値となっており,長いカーボンナノチューブでも同様のレベルでの会合力が実現されているものと考えている.[4]CCの分子ピーポッドからは,さらに興味深い発見図1分子ピーポッドの化学構造式.(Chemical structuresof molecular peapods.)(a)[10]CPP⊃C 60.(b)[4]CC⊃C 60.405