ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

ヌクレオチドを3’末端から5’末端方向へと伸長する酵素の作用原理図7Thg1の反応機構モデル.(Proposed reaction model for Thg1.)(a)アンチコドン認識.(b)5’末端の固定.(c)活性化ステップ.(d)G-1付加ステップ.われが報告した鋳型依存的な3’-5’方向への塩基伸長が可能になると推測している.しかし, tRNA HisへのG-1付加反応に関してはGTP特異的であることから, Thg1ではなくtRNA HisがGTPの認識に関与することが示唆された.7.Thg1の反応機構今回の研究では, Thg1-tRNA, Thg1-ATPおよびThg1-GTP複合体の3種類の構造解析を行った.これら3つの構造情報を統合することで,以下のようなThg1の反応機構モデルを提唱する.7.1アンチコドン認識Thg1はtRNA Hisのアンチコドン(GUG)をfingerドメインにより塩基特異的に認識する.このアンチコドンとfingerドメインの特異的な結合は, tRNAの5’末端をpalmドメインに配置するために必須である(図7a).7.2 5’末端の固定fingerドメインによるtRNAの3’末端側の固定と, G1-C72ワトソン-クリック塩基対の形成により,間接的にtRNAの5’末端が活性化部位に正しく配置される(図7b).7.3活性化ステップfingerドメインの活性化反応部位では,疎水性ポケットとLys44によりATPが特異的に認識される(図7c). ATPのリン酸部位は2つのMg 2+イオン(Mg 2+ A, Mg 2+ B)に配位し,αリン酸が活性化される.この2つのMg 2+イオンを用いたαリン酸の活性化様式は,5’-3’方向ポリメラーゼにおける伸長塩基の活性化機構と非常によく類似している.そのため, Thg1の活性化ステップは,5’-3’方向ポリメラーゼで提唱されているtwo-metal-ionメカニズム11)と同様の反応機構で進行すると考えられている. 7)すなわち,5’-3’方向ポリメラーゼでは,プライマー鎖の3’OHがMg 2+ Aに配位することで脱プロトン化され,αリン酸に求核攻撃できる位置に配置されるが, Thg1の活性化反応では,5’末端のリン酸基がMg 2+ Aに配位し,活性化されたATPのαリン酸基に求核攻撃することで,5’末端がアデニル化される(図7c).7.4 G-1付加ステップG-1付加反応は,第2のヌクレオチド結合部位である塩基伸長部位で起きる.塩基伸長部位では塩基特異的な相互日本結晶学会誌第56巻第6号(2014)作用が存在しないため,主にリン酸基とMg 2+ Cとの相互作用によってGTPは塩基伸長部位に結合する(図7d).このG-1付加反応ではGTPの3’OHが活性化された5’末端のリン酸基を求核攻撃する必要がある.しかし, Thg1-GTP複合体では塩基伸長部位に結合したGTP2の3’OHは,5’末端のリン酸基が結合する活性化反応部位から~10 Aも離れていたため, GTP2は不活性状態と考えられる.この疑問に対し,われわれはThg1のG-1付加反応も5’-3’方向ポリメラーゼの塩基伸長反応同様, two-metal-ionメカニズムを利用すると推測した.そこで, GTP2のリン酸基とMg 2+ Cの結合は維持したまま,リン酸基とリボース間の結合を回転軸とし,リボースおよび塩基部位をMg 2+ Aに近づくように構造変化させた.その結果,目立った立体障害を起こすことなく, GTP2の3’OHをMg 2+ Aに配位することが可能であった(図7d).興味深いことに,構造変化後のGTP2の塩基部分は, tRNAのG1とスタッキングし,A73とグアニン塩基特異的な塩基対を形成できる位置にあることがわかった(図7d).さらに, GTP2の塩基部分はG-1付加反応に関与すると報告されている12) Asn156と塩基特異的な相互作用を形成できる距離に存在していた(図7d).以上の結果から, tRNAの結合がGTP2の構造変化を引き起こすことで,グアニン特異的な認識が可能になり,またGTP2の3’OHがMg 2+ Aに配位できるようになると推測される.この基質RNAを介した伸長塩基の認識と活性化は,まさに鋳型依存的な塩基伸長反応である.8.Thg1と5’-3’ポリメラーゼの構造比較Human由来Thg1の結晶構造解析により,3’-5’方向にヌクレオチド伸長反応を行うThg1が, T7 DNAポリメラーゼのような5’-3’方向ポリメラーゼと同じ触媒コア構造をもつことが報告された. 7)しかし,相同な触媒コア構造を用いてどのように5’-3’方向と3’-5’方向の両方向に塩基伸長が可能かそのメカニズムは不明であった.今回,われわれが3’-5’方向ポリメラーゼであるThg1と基質RNA複合体の構造解析に成功したことで,これまで不可能であった5’-3’方向ポリメラーゼと3’-5’方向ポリメラーゼの基質認識の比較が初めて可能になった.5’-3’方向ポリメラーゼとしてT7 DNAポリメラーゼ-403