ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No6

ページ
66/104

このページは 日本結晶学会誌Vol56No6 の電子ブックに掲載されている66ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

日本結晶学会誌Vol56No6

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

日本結晶学会誌Vol56No6

中村彰良の直接の相互作用なしに,どのようにして正しく活性部位に配置されるのだろうか.まず, tRNAの3’末端に注目すると, 76位のアデニン塩基(A76)と75位のシチジン塩基(C75)は結晶構造中でディスオーダーしていたが, 74位と72位のシチジン塩基(C74, C72)はfingerドメインの主鎖と相互作用していた(図5a).また, C74~C72の塩基を欠失させたtRNA変異体では, G-1付加活性が50%まで低下した(図5b列2).一方, C74をまで含むtRNA変異体は野生型と同等の活性を示した(図5b列3).このことから, tRNAの3’末端をfingerドメインがしっかり固定することが, G-1付加活性に重要であることが示唆された.次に, G1-C72のワトソン-クリック塩基対に注目した.この塩基対を破壊したC72A変異体は, G-1付加活性が大きく低下した(図5b列4).このことから, G1-C72塩基対の形成がG-1付加活性に必須であることが明らかになった.以上の結果をまとめると, tRNAの3’末端側をfingerドメインがしっかり固定し,その3’末端上のC72とG1がワトソン-クリック塩基対を形成することで,間接的にG1を正しく活性部位に配置していることが示唆された.6.ヌクレオチドの認識図5アクセプターステムの認識.(Acceptor stem recognitionby Thg1.)(a)fingerドメインとtRNAの3’末端領域の相互作用.(b)tRNA変異体を用いたG-1付加活性測定.Thg1はtRNAの5’末端の活性化反応と塩基伸長反応にATPとGTPの2種類のヌクレオチドを用いている.本研究ではThg1-ATPおよびThg1-GTP複合体の立体構造解析を行い,各反応でのヌクレオチド認識の詳細を解明した.Thg1-ATPおよびThg1-GTP複合体の結晶構造では,どちらの構造でもpalmドメインに2分子のヌクレオチドの結合が確認された(図6a, b).過去に行われた生化学実験から各反応部位は同定されており, ATP1/GTP1の結合部位が活性化部位, ATP2/GTP2の結合部位が塩基伸長部位である. 5)また, palmドメインには3つのMg 2+イオン(Mg 2+ A, Mg 2+ B, Mg 2+ C)が存在していた(図6a, b).Thg1は活性化反応にATPとGTPを用いることができるが, ATPのほうがより高い活性を示すことが明らかになっている. 7)このATPに対する特異性を解明するために活性化反応部位に結合したATP1とGTP1の結合様式を比較した.活性化部位に結合したATP1/GTP1の塩基部分はfingerドメインの2つのヘリックス(α2,α3)で形成される疎水性ポケットに結合しており, ATP1のアデニン塩基はAsp47の主鎖と塩基特異的な水素結合を形成することで疎水性ポケットに深く結合していた(図6c).一方,GTP1のグアニン塩基はGlu43とAsp47の主鎖と塩基特異的な水素結合を形成し, ATP1とは異なり疎水性ポケットには浅く結合していた(図6c).この疎水性ポケットとの結合の違いは, Lys44との相互作用にも影響している.疎水性ポケットに深く結合したATP1のアデニン塩基とリボースはLys44と水素結合を形成しているのに対し, GTP1図6ヌクレオチドの認識.(Nucleotides recgnition byThg1.)(a)palmドメインに結合した2分子のATP(ATP1/ATP2),(b)GTP(GTP1/GTP2).活性部位に配位した3つのMg 2+イオン(Mg 2+ A, Mg 2+ B,Mg 2+ C)を黒いボールで表した.(c)活性化部位におけるATPとGTPの結合様式の比較.とLys44間には特別な相互作用は確認されなかった(図6c).興味深いことに,これまでの生化学実験によって,Lys44をアラニン残基に置換した変異体では活性化反応の効率が1/2000まで低下すると報告されている. 10)このことから,疎水性ポケットとの塩基特異的な相互作用に加え, Lys44による塩基部位の認識が, Thg1によるATPとGTPの識別に重要であることが明らかになった.一方,塩基伸長部位にもATP2とGTP2が共に結合しているが,両者の結合には差がなく,塩基部分はThg1とまったく相互作用していなかった(図6a, b).このことから,塩基伸長部位にはGTPだけでなく, 4種のヌクレオチドすべてが結合できると考えられ,その結果,これまでにわれ402日本結晶学会誌第56巻第6号(2014)