ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

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概要

日本結晶学会誌Vol56No6

ヌクレオチドを3’末端から5’末端方向へと伸長する酵素の作用原理と相互作用していた. tRNA1のアンチコドンループは分子Dのfingerドメインによって認識されていた. Thg1はアンチコドンを厳密に識別し,5’末端にG-1を付加するが,興味深いことに,その重要な2カ所をどちらもfingerドメインが認識していた(図3d).そこで,5’末端に結合した分子Aのfingerドメインと,アンチコドンループに結合した分子Dのfingerドメインの構造を重ね合わせたところ,fingerドメインには2種類のRNA認識部位が存在することが明らかになった(図3e). 1つ目のRNA結合部位は2つのαヘリックス(α6とα7)とループからなり,5’末端および3'末端と結合していた. 2つ目のRNA結合部位は1つ目の結合領域の反対側に位置し, 3つのヘリックス(α5,α7,α8)によりアンチコドンループと塩基特異的に結合していた. fingerドメインはそれぞれのtRNAとの結合により構造変化しており,片側へのtRNAの結合が反対側のRNA結合部位の構造を不活性型にすると推測される.その結果, 1つのfingerドメインには1分子のtRNAしか結合できないため, 4量体のThg1には最大2分子のtRNAしか結合できないと考えられる.4.アンチコドン(GUG)の認識これまでの生化学からThg1はtRNA Hisのアンチコドン(GUG)を厳密に認識することで, tRNA His特異的にG-1を付加することが明らかになっている. 5) Thg1-tRNA複合体の結晶構造では, tRNAのアンチコドンループはfingerドメインと相互作用することで大きく構造変化し,アンチコドンの3塩基は大きくフリップアウトとすることで塩基特異的に認識されていた.アンチコドンの第1塩基である34位のグアニン塩基(G34)は37位のグアニン塩基(G37)とPhe194の間にスタッキングしていた(図4a). 3者の位置関係から,このスタッキング相互作用はプリン塩基特異的であると考えられる.実際, G34とG37をピリミジン塩基であるシチジンに置換した変異型tRNAでは, Thg1のG-1付加活性が大きく低下したことから,このプリン塩基特異的なスタッキング相互作用の重要性が示された. 9)さらに,アンチコドンループ内において, G34と35位のウリジン塩基(U35)の間に塩基特異的な水素結合が確認された(図4a).G34を同じプリン塩基であるアデニンに置換したG34A変異体においても, G-1付加活性が低下した. 9)以上の結果から, Thg1はスタッキングによるプリン塩基の認識に加え, U35との塩基間水素結合によってG34を特異的に認識していることが明らかになった.アンチコドン第2塩基であるU35は,上記のG34との水素結合に加えて, Asn202の主鎖とAsn190の側鎖と水素結合を形成し,塩基特異的に認識されていた(図4b).Asn190をアラニン残基に置換した変異体では, G-1付加活性が低下したことからも,この水素結合を介した塩基認識の重要性が確認された.アンチコドン第3塩基である36位のグアニン塩基(G36)はアンチコドンループから大きくプリップアウトし,α5とα8の2本のヘリックスで形成されるくぼみに結合し,His154とスタッキングしていた(図4c).さらに, Lys209とLys210の側鎖ともグアニン塩基特異的な水素結合を形成していた. His154, Lys209およびLys210をほかのアミノ酸に置換したThg1変異体はすべてG-1付加活性が低下したことから,この3残基がG36の特異的な認識に重要であることが確認された.以上の結果から, Thg1はfingerドメインおよびRNA間のさまざまな相互作用によってtRNA Hisのアンチコドン(GUG)を塩基特異的に認識していることが明らかになった(図4d).また,さまざまなThg1変異体およびtRNA変異体を用いた生化学実験の結果, G-1が付加される5’末端とアンチコドンループは遠く離れているにもかかわらず(~60 A), Thg1とアンチコドンの結合はG-1付加活性に大きく影響することが明らかになった.このことから, Thg1がtRNA Hisのアンチコドンと正確に結合することが, tRNAの5’末端を活性部位に正しく配置するために必要だと推測される.図4アンチコドンの認識.(Anticodon recognition byThg1.)(a)G34の認識.(b)U35の認識.(c)G36の認識.(d)Thg1のアンチコドン認識の模式図.太い点線はスタッキング相互作用,矢印は水素結合を示している.5.アクセプターステムの認識tRNAのアクセプターステムの末端領域は, fingerドメインの2つのヘリックス(α6とα7)およびループと相互作用していた(図5a).一方で, G-1が付加されるtRNAの5’末端のグアニン塩基(G1)はfingerドメインとまったく相互作用していなかった.一体, G1はfingerドメインと日本結晶学会誌第56巻第6号(2014)401