ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

中村彰良なわち3’から5’方向に)鋳型依存的にヌクレオチドを伸長する能力をもつことが明らかになった. 6)さらに驚くべきことに, 2010年に行われたHuman由来Thg1の立体構造解析の結果, Thg1は一般的なDNA/RNAポリメラーゼと共通の活性部位構造をもつことが明らかになった. 7)現在明らかになっているすべてのDNA/RNAポリメラーゼは5’-3’方向に塩基を伸長する. 8)反応機構だけでなく立体構造もDNA/RNAポリメラーゼと相関があることから,Thg1は唯一の3’-5’方向ポリメラーゼとして一躍脚光を浴びた(図2).しかしながら,5’-3’方向ポリメラーゼと同じ活性部位をもちながら, Thg1がどのように3’-5’方向に塩基を伸長するのかは不明であった.われわれは, Thg1-tRNA複合体の結晶構造を解析し,5’-3’方向ポリメラーゼとの基質認識の比較から, Thg1がもつ3’-5’方向への塩基伸長の一端を解明した. 9)本稿では,まずThg1が生体内で行うG-1付加反応に焦点をあて,最後に3’-5’方向への塩基伸長に関して得られた知見を解説する.2.Thg1-tRNA複合体の結晶化と構造解析大腸菌BL21(DE3)を用いてCandida albicans由来Thg1を大量調製し,各種クロマトグラフィーを用いて高純度に精製した. tRNAに関してはCandida albicans由来tRNA HisをT7 RNAポリメラーゼを用いたin vitro転写で調製したが,その収量は非常に少なく,結晶化スクリーニングが難航していた.そこで, Thg1がtRNAのアンチコドン部位だけを認識することに注目し, 5)転写効率が高いSaccharomycescerevisiae由来tRNA Pheのアンチコドンをヒスチジンのアンチコドン(GUG)に置換した変異型tRNA(tRNA Phe GUG)を調製した. tRNA Phe GUGの収量は非常に多く,かつThg1はtRNA Phe GUGに野生型tRNA Hisと同等の活性を示したことから,このtRNA Phe GUGを結晶化スクリーニングに用いた.その後, Thg1-tRNA Phe GUG複合体の結晶化に成功し,SPring-8 BL41XUにて回折データを測定した. Human由来Thg1単体の立体構造(PDB ID:3OTE)をサーチモデルに分子置換法で位相決定し, 3.6 A分解能でThg1-tRNA Phe GUG複合体の構造決定に成功した.また, Thg1-tRNA His複合体もThg1-tRNA Phe GUG複合体と同じ条件で結晶化し, Photon Factory BL1Aにて回折データを収集し,最終的に4.2 A分解能で構造決定に成功した.得られたThg1-tRNA Phe GUG複合体とThg1-tRNA His複合体では,全体構造だけでなくtRNAとの相互作用もほぼ共通であることから,これ以降の構造に関する議論はデータの質が高いThg1-tRNA Phe GUG複合体を用いた.3.Thg1-tRNA複合体の全体構造われわれが構造解析に成功したThg1-tRNA複合体では,Thg1がdimer of dimerからなる4量体(分子ABと分子CD)を形成し,その4量体に2分子のtRNAが結合していた(図3a).また,ゲルろ過およびX線小角散乱による分析から,溶液状態においても結晶構造と同様に4量体Thg1が2分子のtRNAが結合することを確認した. 9)Thg1のドメイン構造は,一般的なDNA/RNAポリメラーゼと同様に,活性部位を含みβ-シートとαヘリックスからなるpalm(手のひら)ドメイン(1-137残基)と,活性部位の近傍に存在しヘリックスバンドルで形成されるfinger(指)ドメイン(138-268残基)で構成される(図3b).4量体に結合した2分子のtRNAはそれぞれが3分子のThg1と相互作用していた(図3c). tRNA1のアクセプターステムの末端は分子Aと分子Bにより認識されており,特に3’末端領域は分子Aのfingerドメインと相互作用していた.また,アクセプターステムとTΨCアームのリン酸骨格は分子Bの活性部位の裏側に存在する親水性残基図3Thg1-tRNA複合体の結晶構造.(The crysal structure of the Thg1-tRNA complex.)(a)Thg1-tRNA複合体の全体構造.(b)Thg1のドメイン構成.(c)3分子のThg1とtRNAの相互作用.(d)fingerドメインとアクセプターステムおよびアンチコドンループとの相互作用.分子Aに分子DをtRNAとともに重ねた.400日本結晶学会誌第56巻第6号(2014)