ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

ヘム鉄代謝の鍵となる電子伝達複合体の構造解析図6CPRのダイナミックな構造変化を伴うHOへの電子伝達機構.(Electron transfer mechanism from CPR to HOwith the dynamic conformation change of CPR.)の還元の程度が異なるからではないかと示唆されている.もしかすると,このグリシンのコンフォメーション変化が全体構造の変化のトリガーなのかもしれない. 21) HO-1は一分子のヘムを分解するのに7つの電子を必要とするが,このサイクル一回では1個または2個の電子しか供給できない.そのため,ヘムを一分子分解するためには,1)~5)のステップを何度も繰り返す必要があると示唆される.CPRのopen型では複数のコンフォメーションが報告されているが, 9) HO-1と相互作用する形はその中で最もコンパクトなものであった. CPRが還元する相手の代表はシトクロムP450であり,それらはHO-1よりも大きなタンパク質である. CPRがさまざまなコンフォメーションのopen型を形成することは,大きさも形も異なるさまざまなヘム酵素と相互作用し,電子を受け渡すことに重要と考えられる.このように多様な構造をとることがCPRが電子伝達を行うハブタンパク質の1つとして機能するうえで不可欠なことなのであろう.このようにわれわれは変異CPR-HO複合体の構造決定に成功し, CPRのダイナミックな構造変化を伴うHOへの電子伝達機構について推定した.本構造はHOへの電子伝達機構のみならず,シトクロムP450とCPRの相互作用,電子伝達機構を考えるうえでも有用である.しかし,現段階ではその分解能は悪く,側鎖レベルの議論はほとんどできないので,今後は結晶の高分解能化を目指していきたい.また,実際にHO反応中にCPRの結合解離が繰り返されるのかどうか, close型CPRにHOは結合できないのかどうかを生化学的に検討していきたいと考えている.謝辞本研究は大阪大学大学院理学研究科の福山恵一教授(現:名誉教授)のもとで,私が大学院生であった頃からスタートし,久留米大学医学部医化学講座の野口正人教授(現:帝京大教授)のもとに異動した後も,継続した息の長い研究を続けさせていただいた結果,得られたもので日本結晶学会誌第56巻第6号(2014)す.お二人,また久留米大学において研究をサポートしていただいた医化学講座,化学教室の皆様,九州工業大学の坂本寛教授に深く感謝いたします. X線回折実験は大型放射光施設SPring-8 BL44XU, X線小角散乱実験はSAGA-LS BL11において実施しました. BL44XUでの測定では,宮崎大学の和田啓助教にお世話になりました. NMRによる緩和速度の解析は,サントリー生物有機科学研究所の菅瀬謙司主任研究員,原田英里砂研究員との共同研究です.また,本研究は文科省科研費若手(B),基盤(C)および石橋学術振興基金助成金の支援を受けて行われました.文献1)G. Kikuchi, T. Yoshida and M. Noguchi: Biochem Biophys ResCommun 338, 558 (2005).2)S. W. Ryter, J. Alam and A. M. Choi: Physiol Rev 86, 583(2006).3)E. M. Dioum, J. Rutter, J. R. Tuckerman, G. Gonzalez, M. A.Gilles-Gonzalez and S. L. McKnight: Science 298, 2385 (2002).4)T. Morikawa, M. Kajimura, T. Nakamura, T. Hishiki, T. Nakanishi,Y. Yukutake, Y. Nagahata, M. Ishikawa, K. Hattori, T. Takenouchi,T. Takahashi, I. Ishii, K. Matsubara, Y. Kabe, S. Uchiyama, E.Nagata, M. M. Gadalla, S. H. Snyder and M. Suematsu: ProcNatl Acad Sci U.S.A. 109, 1293 (2012).5)杉島正一:日本結晶学会誌49, 99 (2007).6)海野昌喜,松井敏高,齋藤正男:日本結晶学会誌53, 213 (2011).7)M. Sugishima, H. Sato, Y. Higashimoto, J. Harada, K. Wada, K.Fukuyama and M. Noguchi: Proc Natl Acad Sci U.S.A. 111,2524(2014).8)M. Wang, D. L. Roberts, R. Paschke, T. M. Shea, B. S. Mastersand J. J. Kim: Proc Natl Acad Sci U.S.A. 94, 8411 (1997).9)D. Hamdane, C. Xia, S. C. Im, H. Zhang, J. J. Kim and L. Waskell:J Biol Chem 284, 11374 (2009).10)L. Aigrain, D. Pompon, S. Morera and G. Truan: EMBO Rep 10,742 (2009).11)A. Vagin and A. Teplyakov: J Appl Crystallogr 30, 1022 (1997).12)R. A. Nicholls, F. Long and G. N. Murshudov: Acta CrystallogrSect D Biol Crystallogr 68, 404 (2012).13)Y. Higashimoto, H. Sakamoto, S. Hayashi, M. Sugishima, K.Fukuyama, G. Palmer and M. Noguchi: J Biol Chem 280, 729397