ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

日本結晶学会誌56,393-398(2014)最近の研究からヘム鉄代謝の鍵となる電子伝達複合体の構造解析久留米大学医学部杉島正一Masakazu SUGISHIMA: Structural Analysis of the Redox Complex which is a Key inHeme MetabolismHeme is an important co-factor for several biological processes such as respiration, electrontransfer and enzymatic reaction, whereas free heme is toxic because of the production of reactiveoxygen species. Therefore free heme should be decomposed immediately in vivo. Heme oxygenase(HO)is an indispensable player for heme degradation. HO catalyzes the site-specific cleavage ofheme porphyrin ring to produce biliverdin, ferrous iron, and carbon monoxide. This reactionrequires several oxygen molecules and electrons supplied from NADPH-cytochrome P450 reductase(CPR). We have determined the crystal structure of the redox complex of CPR and HO. Inthis structure, FMN bound to CPR is close to heme bound to HO, whereas FAD bound toCPR is far from both of FMN and heme. Electron transfer mechanism from CPR to HO withdynamic conformation change of CPR is discussed.1.はじめにヘムは,ポルフィリン環の中心に鉄が配位したポルフィリン鉄錯体であり,すべての生命が酸素を利用するうえで,必須の補因子である.その機能は,酸素分子の運搬や貯蔵(ヘモグロビン,ミオグロビン),電子伝達(シトクロム類),酵素の活性中心(シトクロムP450など),センサー(可溶性型グアニル酸シクラーゼ, CooA, FixLなど)など多岐にわたる.一方で遊離状態のヘムは活性酸素を生じる有害な分子である.ヒトの赤血球は120日周期で新陳代謝される.それに伴って一日におよそ8 gのヘモグロビンが分解され,遊離のヘムが生じる.また,出血時や細菌感染による溶血などが生じた際にも,遊離のヘムが生じる.これらを分解し,ヘム鉄を回収および無毒化する系がヘム代謝系である.この代謝系で,ヘムはヘムオキシゲナーゼ(HO)によってポルフィリン環が開裂され,ビリベルジン,鉄,一酸化炭素が生成される(図1). 1)この反応には, NADPH-シトクロムP450還元酵素(CPR)からの還元力と酸素分子が必要である.遊離した鉄はトランスフェリンやフェリチンのような鉄運搬あるいは貯蔵タンパク質によって回収され,再利用される.このようにヒトはヘムから鉄を回収することによって,一日に必要とされる鉄分の9割以上をまかなっており, HOは生存に必須の酵素である.近年,この代謝経路は,従来から知られていた鉄の再利用という生理機能以外に,酸化ストレスに対する防御やシグナル伝達といった側面について注目されるようになってきた.ビリベルジンはビリベルジン還元酵素によって,ビリルビンに還元され,グルクロン酸抱合を受けた後に,日本結晶学会誌第56巻第6号(2014)胆汁色素として体外へと排出される.このうち,ビリベルジンやビリルビンが強い抗酸化活性をもつことや酸化ストレスなどによって誘導型HO(HO-1)の発現が誘導されることから,ヘム代謝系の酸化ストレスに対する防御機構としての役割が明らかにされつつある.また,一酸化炭素はNF/κBを介した抗炎症作用や抗アポトーシス作用, 2)NPAS2を介した体内時計の調節, 3)シスタチオニンβ合成酵素を介した虚血時の血管拡張作用4)などに関与するシグナル伝達分子であることが示唆されている.さらに,癌,パーキンソン病,アルツハイマー病などの種々の疾患で, HO-1の発現増減や転写調節領域でのSNPsが報告されており, HO-1は創薬ターゲットとしても期待されている.HOはヘム代謝系の律速酵素であり,活性酸素種がほかのヘムを補酵素とするモノオキシゲナーゼとは異なることから,その反応機構について種々の研究がなされた.例えば反応中間種については,その立体構造までほぼすべて図1哺乳類のヘム代謝系.(Heme catabolism in mammals.)393