ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

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概要

日本結晶学会誌Vol56No6

世界結晶年(IYCr2014)日本の取り組み写真3講演中の北川教授写真4講演中の神谷教授イオンコアの空間に存在する電子密度はかなり薄く,結合エネルギーも小さい.圧力をかけることにより,特定の方向に電子密度が高くなることは十分あり得る話で,そのようなときには理想的細密構造から,加圧により構造変化が起きることはあるのではないかと,講演を聞きながら感じた.高圧科学の豊かさを垣間見た気がした.20分間の休憩を挟んで,京都大学の北川宏氏(写真3)による元素間融合に関する講演が行われた.急遽,題目を変更されたようで,それだけ,話したかったテーマなのであろう.北川先生によると,「元素間融合」を一言でいうと,「AとCという元素を混ぜたら,真ん中にあるBという元素ができた」というようなものだそうである.実際には,原子番号45のロジウムと47の銀を混ぜて,原子番号46のパラジウムの性質を示す人工パラジウムの作製に成功したのである.もちろん,原子核反応ではないので原子核には何の変化もない.本来,混じり合わない原子同士を何らかの方法により原子レベルで融合させることができると,イオンコアは銀でありロジウムであるが,そのイオンコアの周りのフリーエレクトロンには,銀であるとかロジウムであるという属性は消えているので,バンドの中の電子の性質は,中間のパラジウムになるということのようである.その結果,水素を吸う能力のない銀とロジウムから,水素吸蔵能力のある人工パラジウムの作製に成功した.本来混ざらない原子を,アトムオーダーで混ぜる苦労は,並大抵のことではないであろうが,その結果得られる現象は,本当に面白い.この技術を,「DOSエンジニアリング」という言葉で表しているが,大変魅力的な言葉である.次のターゲットは,天然には安定して存在しないテクネチウムとのことであるが,是非,成功させてほしいと願っている.シンポジウム最後の講演は,大阪市立大学の神谷信夫氏(写真4)による「エネルギー創生と結晶」と題した講演である.結晶学会の会員なら誰でも知っていることと思うが,神谷先生と岡山大学の沈建仁教授らの研究グループは,大型放射光施設SPring-8を使い光化学系II複合体(PSII)のX線結晶構造解析を分解能1.9 Aで行うことに成功した.この研究は, 2011年に発表され,その年の米国サイエンス誌の「Breakthrough of the Year」の1つに選ばれたこともよく知られている.この研究により, PSIIの触媒中心の構造は,歪んだイス形構造をしていることがわかった.その後,触媒中心の構造が測定中の放射線損傷の影響を受けているのではないか,ということが論争になったようである.今回の講演では, X線自由電子レーザーSACLAによる“Diffraction before Destruction”の原理により,放射線損傷フリーの構造解析に成功し,触媒中心の構造がその影響を受けていないことを実証したことを話された. PSIIの構造解析といい,放射線損傷フリーの構造解析といい,タンパク質結晶構造解析の研究者だけでなく,多くの研究者にとって大変刺激的な講演であったと思う.3.おわりに4人の講師の方々の講演があったが,物理,鉱物,化学,生物分野の第1線で活躍する研究者の生の声を聴ける,大変貴重なシンポジウムになった.個人的には,これからの結晶学が進む道は,やはり興味のある物質を取り扱うことが非常に重要であるとの考えを確認することができた.日本結晶学会誌第56巻第6号(2014)381