ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No6

ページ
40/104

このページは 日本結晶学会誌Vol56No6 の電子ブックに掲載されている40ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

日本結晶学会誌Vol56No6

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

日本結晶学会誌Vol56No6

世界結晶年(IYCr2014)日本の取り組み大阪大学総合学術博物館第18回企画展魅惑の美Crystal―最先端科学が拓く新しい結晶の魅力―大阪大学蛋白質研究所栗栖源嗣Genji KURISU: 18 th Special Exhibition of Osaka University Museum; Fascinating Beauty?Crystals and State-of-the-art Science1.はじめに大阪大学に「総合学術博物館」があるのをご存知だろうか.大阪大学創設以来の貴重な学術標本や散逸しがちな研究資料を,統一的に保管する部局として2002年に設置された.大阪大学会館と待兼山修学館とを中心に,社会と大阪大学とをつなぐ拠点として活動している.大阪大学の卒業生や元職員であれば,旧イ号館および旧医療技術短期大学部本館にあると説明するほうがわかりやすいかもしれない.大阪大学総合学術博物館での展示は,待兼山修学館(旧医療技術短期大学部本館)での常設展示のほかに,テーマを絞った企画展示が年に2回程度開催されている.世界結晶年に合わせて『魅惑の美Crystal―最先端科学が拓く新しい結晶の魅力―』と題した企画展が,平成26年10月25日~平成27年1月16日の予定で開催中である.この企画展は,博物館の橋爪館長,上田教授,豊田准教授,宮久保准教授,蛋白質研究所の中村所長,中川教授,理学研究科の今田教授と一緒に立案・企画して準備を行った.本稿では,準備メンバーを代表して企画展の経緯と概要を報告させていただく.2.概要2.1経緯大阪大学では,理学部・仁田勇先生(物理化学講座初代教授)の流れをくむ数多くの研究者が,理・工・薬の各学部や蛋白研・産研などの各部局で活躍してこられた.仁田研究室では,海人草の薬効成分として発見されたカイニン酸やフグ毒テトロドトキシンなど,当時困難であった生理活性物質の絶対構造が決定されている.また,仁田門下の一人である角戸正夫先生(蛋白質研究所蛋白質物理構造研究部門初代教授)は, X線結晶学を巨大分子であるタンパク質に適用し,日本で最初の蛋白質の立体構造(カツオ由来チトクロムc)を解析しておられる.このように,理学部化学教室を源流とする最先端の結晶学研究を通じて,大阪大学では多くのX線結晶学の専門家が養成されてきた.特に化学・生物学の領域でX線結晶学をベースとした構造化学,構造生物学の研究に伝統と実績があり,大阪大学は自他ともに認める結晶学研究のルーツの1つといっても過言ではない.仁田先生が設立にかかわられた日本結晶学会を中心に,日本全国で世界結晶年に関連したさまざまな企画が行われている.大阪大学でも博物館の運営委員を務めている栗栖(蛋白研)を窓口として,博物館の豊田准教授を中心に,蛋白研そして理学研究科の結晶学関連の教員とで企画展を立案実施することとなった.2.2内容今回の企画展は,企画展示,体験教室,シンポジウムの3本立てで,先端科学を支える学術的側面と,その美しさで人を引き付ける美術品としての側面を,新しい結晶の魅力として伝えるとともに,大阪大学における結晶学研究の歩みを振り返る展覧会として企画した(写真1).“芸術に関連する展示”では,芸術品と結晶学との古くて新しい関係を,さまざまな展示品と体験教室・シンポジウム講演とで紹介するよう企画されている.紅白梅図屏風の描法再現に関しては,森山知己先生の全面的なご協力により再現屏風をはじめとする多くの展示品をご提供いただいた(写真2).実物展示されている「雪華図説」「続雪華図説」を記した土井利位(古河藩主)は,大坂城代を務めた大名で,図説の基となった20年にわたる雪の結晶観察には,大坂城の雪も含まれていたであろうことは,企画展の地域性を考えると大変興味深い.“結晶自身の美しさ”を表現する展示では,大型の人工結晶をお借りすることができた.大阪大学所蔵の鉱物標本のみでは体験することのできない,迫力のある展示となっている.“結晶学研究黎明期”の展示品としては,㈱リガクの山梨工場で展示されていた古いX線カメラをお借りすることができた(写真3).また,仁田先生が開設にご尽力された関西学院大学理学部(現在は理工学部に改組)に,仁田先生ゆかり写真1企画展のパンフレット376日本結晶学会誌第56巻第6号(2014)