ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

世界結晶年(IYCr2014)日本の取り組み世界結晶年記念シンポジウム:タンパク質結晶学の歴史(第14回日本蛋白質科学会年会)東京大学大学院農学生命科学研究科中村顕Akira NAKAMURA: PSSJ2014 Symposium“Historical Review of Protein Crystallography”Report1.はじめに2014年6月25日~27日にワークピア横浜/横浜産貿ホールマリネリア(横浜市)において第14回日本蛋白質科学会年会が開催された.その最終日に,本年が世界結晶年であることを記念したシンポジウム「タンパク質結晶学の歴史」があり,私もタンパク質結晶学・構造生物学分野に身を置く研究者として講演内容に興味があり,これに参加した.このシンポジウムでは日本結晶学会会長の三木邦夫先生による世界結晶年(IYCr2014)および本シンポジウムのイントロダクションの後に,日米を代表するタンパク質結晶学者であるBrian W. Matthews先生,月原冨武先生によるご講演があった. Matthews先生はご自身とBragg親子とのかかわりやタンパク質X線結晶構造解析の黎明期について,月原先生は特にタンパク質結晶学における日本人の寄与についてお話しされた.以下,ご講演の内容に触れつつ私見を述べたいと思う.2.シンポジウム企画内容Matthews先生はT4 lysozymeやpeptidaseなどの酵素をはじめとして数多くのタンパク質の立体構造をご報告されているとともに,タンパク質X線結晶構造解析を行う上で必ず目にするMatthews係数(VM)の提案者としても有名であることは言うまでもないだろう. Matthews先生は,オーストラリアアデレード近郊のご出身であり,アデレード大学にて博士号を取得された.このアデレード大学はイギリス出身のW. H. Braggが23歳(!)で数学および実験物理学の教授となられた初任地でもあり,そのご子息であるW. L. Braggはこの地で生まれ同大学を卒業されている.つまり, Matthews先生とBragg親子をつなぐのがアデレードという町ということになる.後にMatthews先生がケンブリッジのMRC分子生物学研究所でポスドクとして勤務されていた1965年頃, W. L. Braggとお会いになり,研究内容について議論するとともに故郷の思い出話に花を咲かせたそうである.ところで, 1915年のBragg親子によるノーベル物理学賞受賞の前年, W. H. BraggはMax von Laueとともに同賞の候補者に名前が挙がっていたそうである.しかし,委員会はX線結晶学の基本原理を築き上げるのにW. L. Braggが重大な貢献をしたこと370を鑑み,この年の受賞はvon Laueひとり(結晶によるX線回折現象の発見)とし,翌年にBragg親子がそろってノミネートされたことを受けて,晴れて共同受賞(X線による結晶構造解析に関する研究)としたそうである.これらに関してはActa Crystallographica Section A特集号「Braggcentennial」内の記事に詳しいので是非ご一読いただきたい(A. Liljas: Acta Cryst. A69, 10 (2013); B. W. Matthews:Acta Cryst. A69, 34 (2013)など).さて, Max F. Perutz, John C. Kendrewによる重原子同型置換法の開発を通じたhemoglobin, myoglobinの立体構造が報告された1960年頃, Matthews先生は博士課程において低分子結晶構造解析に取り組まれていた.その時期の話題として,使用されたX線発生装置やFourier計算用のBeevers-Lipson strips, 2000ワードのメモリを搭載したIBM 1620コンピュータを用いて解析された低分子構造のご紹介があった.いずれのツールも私には馴染みがないために詳細はわからなかったが,環境に恵まれた現代とは異なり, 1つの分子を解析するにも随所で多大な労力が費やされ試行錯誤があったであろうことが容易に想像される.学位を取得された後, Matthews先生はMRCのDavid M.Blow研究室で勤務された.そのときのchymotrypsinの仕事(Nature 214, 652)は投稿からわずか10日で誌上に掲載されており,優れた研究成果のインパクトやタンパク質立体構造情報への期待の高さが窺える.また,その後のMatthews先生の成果として代表的なT4 lysozymeのランダム変異による温度感受性の解析は,立体構造情報から機最新の研究成果についてご講演中の月原冨武先生日本結晶学会誌第56巻第6号(2014)