ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

世界結晶年(IYCr2014)日本の取り組み薬学における結晶学とその応用―2014年世界結晶年を記念して―(日本薬学会第134年会)東京大学大学院薬学系研究科藤間祥子Sachiko TOMA-FUKAI: Symposium Report from 134 th Annual Meeting of thePharmaceutical Society of Japan ? Special Symposium to Commemorate InternationalYear of Crystallography1.はじめに本年は世界結晶年であることから国内外でさまざまなイベントが催されています.改めて記すことでもないかもしれませんが,薬学においても,製剤から薬物または標的タンパク質の立体構造決定に至るまでさまざまな場面で結晶学が活用されています.今年の春, 3月27日から3月30日まで開催された日本薬学会134年会でも世界結晶年を記念して『薬学における結晶学とその応用―2014世界結晶年を記念して―』と題されたシンポジウムが行われました.結晶学会誌の世界結晶年特集号である本号にシンポジウムの報告をさせていただきたいと思います.2.シンポジウム報告薬学会は,例年年度のほぼ終わり3月末に開催されます.とても大きな学会で,創薬,医療,教育など『薬』を中心に幅広い分野にわたり議論が行われます.今年2014年は熊本で開催されました.本誌をお読みになっていらっしゃる方々は当然ご存知と思いますが, 2013年の結晶学会の年会もまた熊本で開催されました.私は昨年の結晶学会の際に,熊本五校は寺田寅彦が学生時代を過ごした場所であること,また日本における近代結晶学の扉を開いたという功績があるということを知りました.熊本は寺田寅彦縁の地であるということから,薬学会でのシンポジウムでも,第一演題は『寺田博士の軌跡』と題した発表が行われました.寺田寅彦といえば一般的に物理学者であることに加え俳人や随筆家,夏目漱石の小説にモデルとして登場する方としても有名です.このような一般的な認識はありましたが,よもや現在の自分の研究(タンパク質の結晶構造解析を専門としています)にかかわっているなど夢にも思っていなかった身としては,シンポジウムで講演を聞き,この事実に再度驚くとともに,小説などから感じる明治から大正にわたる時代の空気も思い起こされ,先駆者の方々が初めて国内で回折実験を行ったときの様子がイメージできたような気がして,なにかわくわくした気持ちになりました.第2演題からはシンポジウムの題にもあるように,薬学分野で行われる結晶学の最先端の応用技術についての講演が4演題発表されました.静岡県立大の野口先生は製剤研究への結晶学の利用いついて,東京大学の藤田先生は結晶スポンジ法を用いた非結晶性極少量化合物の結晶構造解析法について,奈良先端大学の箱嶋先生は創薬標的となるタンパク質の構造研究について,アステラス製薬の阪下先生は製薬企業におけるX線結晶構造解析の現状について報告されました.以上簡単な演題内容の記述からも,『薬』と『結晶学』の密接な関係がみてとれ,創薬の発展に結晶学の果たした功績の大きさを改めて感じることができます.シンポジウム会場となったパレアホールは熊本市の中心地にある鶴屋百貨店東館の10階にあり,少しわかりにくい場所であったにもかかわらず,ほぼ会場が埋め尽くされるほどの人が参加されており,驚くとともに薬学関係者にも大きな関心をもたれているのだと改めて感じました.もちろん各演題の発表内容もすべて面白く,演題が進むに従って議論がどんどん活発になり,多くの質問や討論がなされていました.私も自分の専門以外の製剤や薬物の構造決定の最先端の話を聞くことができてとても勉強になり,また刺激にもなりました.本シンポジウムに参加して結晶学が学術研究のみならず産業界(製薬業)の発展に大きく寄与したことを改めて感じるとともに,現在もそして将来もさまざまな技術開発を通して社会に貢献できる学問分野であることを再認識しました.私自身,シンポジウムを通して,今後,社会をさらに意識し創薬研究活動を進めていく決意をあらたにしました.日本結晶学会誌第56巻第6号(2014)363