ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

世界結晶年(IYCr2014)日本の取り組み写真4再現された紅白梅図屏風の前でのご講演(中井先生)の測定,解析から調べたのが「紅白梅図屏風の300年前の姿を探る」(東京理科大学教授中井泉先生)という講演であった(写真4).「文化財の過去を読む」というのは「物質史」,つまり物質には歴史があるという観点からの興味深いサブタイトルとなっていた.この屏風の作成技法にはいくつもの謎があり,例えば,地の金色は金箔を張り合わせたのか,金泥を塗ったのか,中央の川はどのようにして描かれたか,川の中に見られる格子の模様は何なのか,使用された顔料は?などの謎が,顕微鏡観察,蛍光X線, X線回折法など近代的な非破壊測定(多くのポータブル装置は手作りである)を基に解き明かされていくストーリーは大変エキサイティングなものであった. X線回折測定で鉱物性顔料の同定が可能であることは馴染み深いが,金箔部分では結晶面の配向まで観測されており,これが金箔である決め手の1つであった.蛍光X線測定は物質の同定が主な役割であるが,今回は箔足部分の金箔の厚みがほかの二倍以上であると測定できていたのは興味深かった.このことが金箔を並べて押したことの証拠となる.最後の講演は,実際に屏風の再現作製を行った画家の森山知己氏による,再現過程についてのお話,「光琳に倣う日本の美」であった(写真5, 6).実際に同じ構図の屏風をいろいろな工夫をしながら描き上げ,最後に300年前の屏風の当時の姿と思われる屏風を完成させる様子は,すでにNHK「日曜美術館」で放映もされているとのこと.「同じことをすれば違いが見えてくる」,つまり実験で再写真5「光琳にならう日本の美」のご講演(森山氏)写真6再現された紅白梅図屏風現することの重要性が強調されており,画家の方のご講演ではあったが科学的精神に溢れていることは印象的であり,最後に中央の川を化学的に再現し,さらにその銀色がなぜ現在の色になったかを解明した部分は説得力があった.今回のご講演はすべて一般の方々が聴いて十分に理解でき,納得できるすばらしい内容であり,日本における世界結晶年の記念講演会としてまことにふさわしいものであった.なお美術館では所蔵する名品展として,今回の講演の元となった「紅白梅図屏風」が公開されており,講演の後に実物を拝見することができた.362日本結晶学会誌第56巻第6号(2014)