ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No6

ページ
19/104

このページは 日本結晶学会誌Vol56No6 の電子ブックに掲載されている19ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

日本結晶学会誌Vol56No6

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

日本結晶学会誌Vol56No6

世界結晶年(IYCr2014)日本の取り組みを,一般の聴衆に伝えることを目的とした.そこで,プログラムを第1部「寺田寅彦から100年」,第2部「結晶が魅せる美しい世界」,第3部「結晶からうまれる私たちの未来」の三部構成に分けた.司会者は,第一部の司会を,世界結晶年日本委員会の設立に中心的な役割を果たしたひとりである栗原和枝(東北大学)に,第2部をb木佐知夫先生(日本結晶学会元会長,故人), b木ミヱ先生(東京工業大学,名誉)の二人の著名な結晶学者の長女で,表面化学の第一人者である理化学研究所理事の川合眞紀に,第3部を,自然界・分子構造の左右性から神経変性疾患まで展開する応用研究でロレアル・ユネスコ女性科学者賞を2013年に受賞した黒田玲子(東京理科大学)に依頼した.講演者には,結晶学会を超えて幅広い分野にテーマを設定し,その第一人者の科学者を選定した.その中でも,キーパーソンとして中谷宇吉郎の長女である,オルスン・中谷咲子氏(ジョンズ・ホプキンス大学)を講演者として招聘する計画を立て,「中谷宇吉郎雪の科学館」前館長の神田健三氏の紹介により, 2014年2月,米国にオルスン・中谷咲子氏を訪問し,中谷芙二子氏(次女),ロトー・中谷三代子氏(三女)とともに講演と出席を快諾いただいた(図8).参考までに3氏の略歴を以下に紹介する.オルスン・中谷咲子(サイエンティスト,米国ボルチモア在住):ジョンズ・ホプキンス大学教授(岩石学)中谷芙二子(アーティスト):大阪万博「ペプシ館」のデザインチーム,代表作に〈霧の彫刻〉シリーズがあるロトー・中谷三代子(ピアニスト,米国ニューヨーク在住):世界的なピアニスト, Albert Lotto氏の夫人また,図6の遺品の発掘がきっかけとなり,西川正治先生の三男である西川恭治氏(広島大学,名誉)を来賓としてお迎えすることもできた(図8).その他の講演者には,ナノチューブの発見者である飯島澄男(名城大学),放射光科学の研究者であり産学連携で省エネタイヤの開発に貢献した雨宮慶幸(東京大学),エジプト遺跡などさまざまな文化財の分析で有名な中井泉(東京理科大学),半導体材料の開発とデバイスへの応用研究で知られ,自身も太陽電池を自宅に設置し研究を行っている佐藤勝昭(科学技術振興機構(JST)),ネオジム磁石を世界にさきがけて発見した佐川眞人(インターメタリックス㈱),人工光合成の実用化研究の第一人者である井上晴夫(首都大学東京),免疫抑制剤FK506を開発し移植医療図8左からオルスン・中谷咲子,中谷芙二子,ロトー・中谷三代子,西川恭治日本結晶学会誌第56巻第6号(2014)に貢献した新薬開発のキーパーソンの1人である後藤俊男(理化学研究所)にお願いした.これら講演は,結晶学の美しさ,科学技術的な重要性,日本独自の100年の発展が結実したX線自由電子レーザー施設, SACLAへの期待などについて紹介され, 350名を超える聴衆の目を釘付けにした.7.おわりに世界結晶年は,「結晶学」が100年にわたる学術の発展の源流であったことを,あらためて教えてくれたのではないだろうか.その原点の息吹を伝える,西川正治の寺田寅彦との出会いの瞬間を記した文章を紹介し,本稿を締めくくりたい.“先生は片手に岩塩のかなり大きい結晶片をつまんでその孔のすぐ前へ翳し,片手に持たれた蛍光板を少し離して覗きながら,そら見えるだらうと云はれた.蛍光板の中央に円い孔の形が径2センチ位に美しく輝いて居る中へ岩塩の影がうつつて居るのが見えるが,他には別に何も見えない.先生はラウエ斑点が見えるだらうと云はれたに相違ないが,ラウエの写真にあるやうな小さな美しい斑点を想像して居た僕には,てんで何も見えなかつた.先生は結晶を少し動かしながら,そら斑点が動くではないかと云はれるがまだ分らない.成程先生のやうな心眼を以つて居られる方には見えるのだが,我々の節孔同様な眼では分らないのだなと情けなくなつた.先生は僕に岩塩と蛍光板を渡されて自分でやつて見ろと云はれるのでその通りにやつて見たがそれでも見えない.その中に眼が次第に暗黒に慣れて来たのだらうが,結晶を動かすと同時に,フト蛍光板の上に光るものが動いたやうな気がした.ハツと思つてよく見ると,見える見える沢山の光斑が諸所に見えて,それが結晶を動かすとともに動いて行き光を増したり消えたりする,而もそれは写真にあるやうな斑点ではなく径1センチ以上もあるボツとした斑点であつた.先生は「斯うやつて見て居ると実に面白い,いろいろな結晶でそれぞれ特徴があり,また単結晶に限らず他のものでも面白い模様が見える事もある」と云つていろいろ説明して下さつた.”『思想』(岩波書店)寺田寅彦追悼号(1936年3月)より謝辞日本委員会の事務局を務めていただいた大阪大学,井上豪研究室の竹市未帆氏に,深く感謝します.また,さまざまなアドバイスをいただいた,名誉会員の,小村幸友先生,朽津耕三先生,原田仁平先生,田中通義先生,日本高分子学会会長の高原淳先生(九州大学),石川哲也先生(理化学研究所)に感謝いたします.西川正治の資料発掘に,御協力いただいた理化学研究所記念史料室の富田悟氏,野崎しのぶ氏にも感謝致します.355