ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

ページ
85/116

このページは 日本結晶学会誌Vol56No4 の電子ブックに掲載されている85ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

日本結晶学会誌Vol56No4

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

日本結晶学会誌Vol56No4

日本結晶学会進歩賞「巨大なリボヌクレオ複合体および二機能性酵素の結晶構造解析」西増弘志会員(東京大学大学院理学系研究科・助教)Cas9は原核生物のCRISPR/Cas獲得免疫機構に関与するRNA依存性DNAエンドヌクレアーゼであり,約100塩基長のガイド鎖RNAと複合体を形成し,相補的な2本鎖DNAを切断する. Cas9はそのユニークな特性から,ゲノム編集をはじめとする新規の研究ツールとして高い注目を浴びている.西増弘志会員は,分子量190kDaの巨大なCas9-ガイド鎖RNA-標的DNA三者複合体の結晶構造を決定し, Cas9によるRNA依存性DNA切断機構を世界にさきがけて解明した. Cas9-ガイド鎖RNA-標的DNA三者複合体の構造情報は, Cas9を利用した応用研究の基盤となることが期待される.二機能性酵素FBPA/P(fructose-1,6-bisphosphate aldolase/phosphatase)は,ジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)とグリセルアルデヒド3-リン酸からフルクトース1,6-ビスリン酸(FBP)へのアルドラーゼ縮合反応,および, FBPからフルクトース6-リン酸への脱リン酸化反応,という糖新生経路における2つの異なる化学反応を触媒する.西増弘志会員は, FBPA/PとDHAPとの複合体(アルドラーゼ型),および,FBPA/PとFBPとの複合体(ホスファターゼ型)の結晶構造を決定し, FBPA/Pは活性部位の立体構造を劇的に変化させることにより2つの異なる化学反応を触媒することを解明した.この研究成果は,「一酵素一反応」という生化学の常識をくつがえす分子機構の発見となった.上記の西増弘志会員の結晶構造解析による新規なタンパク質の作動機構の解明は,この分野にとって画期的な研究成果であり,日本結晶学会進歩賞に相応しいものである.「未知構造解析を用いた有機結晶の反応機構の解明および酸化物イオン伝導性無機結晶の新物質探索」藤井孝太郎会員(東京工業大学大学院理工学研究科・助教)化学反応機構と物性の発現機構の研究および新物質探索において,結晶構造の情報が必要不可欠である.しかしながら,対象とする物質が微粉末結晶でしか得られないため,通常の単結晶法による構造解析を進めることができず,結晶構造が明らかでない場合も少なくない.そのような場合,粉末回折データから未知の結晶構造を解析する「粉末未知結晶構造解析法」は強力な研究手法となる.藤井孝太郎会員は,これまで一貫して,粉末未知結晶構造解析による有機結晶と無機結晶の化学結晶学の研究を精力的に行い,有機結晶における化学反応機構の解明,酸化物イオン伝導性を示す新物質の発見とその構造解析に成功した.酢酸亜鉛,フマル酸, 4,4’ビピリジンのメカノケミカル反応によって生成した有機金属フレームワークの結晶構造を,実験室系粉末X線回折データを用いた遺伝子アルゴリズム法による未知結晶構造解析によって解明し,固相合成の化学反応機構を明らかにした.さらに,多数の有機結晶の未知構造解析により,光化学反応および相変化の機構を原子レベルで解明することに成功した.また,藤井会員は,陽イオンA, A’, Bのイオン半径を考慮してAA’BO 4組成の新物質を探索し,酸化物イオン伝導性を示す新物質NdBaInO 4を発見した. NdBaInO 4はこれまでに報告がない新しい構造型に属しており,高分解能の放射光X線粉末回折データとチャージフリッピング法を用いた未知構造解析,さらに中性子粉末回折と第一原理計算により,その結晶構造を決定することに成功した.さらに高温でその場観察したNdBaInO 4の中性子回折データに基づいて,酸化物イオンの拡散経路を調べた.上記の藤井孝太郎会員による未知構造解析を用いた,有機結晶の反応機構の解明および酸化物イオン伝導性無機結晶の新物質探索に関する一連の研究成果は,化学結晶学分野のみならず物質科学分野にとって大きな意義がある成果であり,日本結晶学会進歩賞に相応しいものである.