ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

などでの招待講演にたびたび招かれており, IUCr2008ではCrystallographic Computing Schoolの主催に携わっている.田中会員は,自らが開発した方法論を駆使し,原子構造に基づくタンパク質機能研究へ展開することで構造生物学的研究に大きな発展をもたらした.中でも,生命の根源である遺伝子翻訳・発現に関わるタンパク質群の分子構造学的解明をめざして,翻訳開始因子,リボソームタンパク質, tRNA修飾酵素, tRNA合成関連酵素,遺伝子発現を制御するタンパク質などの構造解析を行い,化学反応を原子レベルで理解して機能的発現に結びつけることで,この分野を発展させた.その成果はNature, Scienceをはじめとするいくつものトップジャーナルに掲載され,きわめて高い国際的評価を受けている.方法論開発と構造生物学研究の両方で,このような評価の高い研究を継続的に排出しているのは,世界でも有数の存在であると言える.このような田中会員の業績に対して,構造ゲノム国際会議をはじめとするいくつかの国際会議の招待講演に招かれている.また,田中会員は,結晶学会評議員として長年その運営に携わり,実行委員長として北海道で初めての結晶学会年会を開催し,現在も日本学術会議分科会委員,Acta Crystallographica Section FのCo-Editorを務めている.また,構造生物学分野の国家プロジェクトなどの推進委員や拠点リーダー,放射光施設における各種委員会の委員長や委員を務めるなど,タンパク質結晶学分野の第一人者として活躍して,結晶学会および結晶学コミュニティーに貢献してきた.上記の田中勲会員の研究業績および指導的立場での構造生物学・タンパク質結晶学への貢献は,日本結晶学会西川賞に相応しいものである.日本結晶学会学術賞「エピジェネティックおよび疾病関連タンパク質の構造生物学研究」千田俊哉会員(高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所・教授)千田俊哉会員は,真核生物の転写反応などの制御にかかわるエピジェネティック情報とヌクレオソームの構造変換の関係に注目して,ヒストンシャペロンを中心とした構造生物学研究を推進するとともに,疾患関連のタンパク質,特に胃がんに関係するピロリ菌由来のエフェクタータンパク質CagAの構造生物学研究を精力的に進めてきた.また,創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業において,解析領域の課題管理者として領域をまとめる役割を果たすとともに,新学術領域研究やCRESTなどの事業にもかかわることで,構造生物学分野におけるリーダーの一人として活動している.DNAのメチル化やヒストンの翻訳後修飾などのエピジェネティック情報は,通常の遺伝情報以外で細胞の世代を超えて伝達される情報のことで,遺伝子の発現制御を通じて細胞の分化・増殖や種々の疾病にも関係している.このため, DNAの転写や複製反応に伴って起きるヌクレオソームの破壊や形成の際に,その構成要素であるヒストンがどのように振る舞うかが細胞の運命を決める1つの要因となる.千田会員は,ヒストンと結合しヌクレオソームの破壊や形成に関与するヒストンシャペロンCIA(Asf1)とヒストンH3-H4との複合体,およびヒストンのアセチル化を認識するブロモドメインとCIAとの複合体の結晶構造を明らかにした.その結果に基づき,ヌクレオソーム外でのヒストンH3-H4の基本構造単位を明らかにするとともに,転写開始反応におけるヒストンアセチル化とヌクレオソーム構造変換をつなぐメカニズムの提案を行った.さらに,安定な複合体と考えられてきたヒストンH3-H4四量体((H3-H4)2)がCIAと結合することで, 2つのH3-H4二量体に分割されることを示し,ヌクレオソーム構造変換とエピジェネティック情報の伝搬の構造的基礎を与えた.一方で千田会員は,ピロリ菌由来の発がんタンパク質CagAの結晶構造解析にも成功している.結晶構造に基づいた解析により, CagAが細胞膜とどのように相互作用するかを明らかにした.また, CagA分子のC末端部分が天然変性状態と構造状態の中間的な状態をもつ投げ縄状の構造をもつらしいこと,そしてこの投げ縄構造部分が細胞内のシグナル分子と相互作用してシグナル撹乱に至る分子過程を提案している.上記の千田俊哉会員の独創性かつ新規性に優れた研究業績は,日本結晶学会学術賞に相応しいものである.