ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

クリスタリット脱炭酸反応Decarboxylation Reaction分子中のカルボキシル基を二酸化炭素として引き抜く反応.酵素反応としては90種類以上が知られており,この反応または炭酸付加反応を触媒する酵素には, EC番号4.1.1.X(Xは反応にかかわる基質による)があてられている.これらの中にはオロチジン一リン酸脱炭酸酵素のように,補酵素や金属イオンなしで反応を触媒する酵素も数種類存在するが,ほとんどはフラビン,ビオチン, NAD + ,ピリドキサールリン酸,チアミン二リン酸などをはじめとしたさまざまな補酵素または金属イオンを用いることが知られている.総説1 )などが詳しい.1)T. Li et al.: Bioorg. Chem. 43, 2 (2012).(京都大学大学院理学研究科藤橋雅宏)多重度;リダンダンシーRedundancy (Multiplicity)X線結晶回折実験において,等価な反射を何回測定したかを表す指標である.「多重度=測定した総反射数÷独立な反射数」で計算される.通常,結晶の放射線損傷の影響がなければ,多重度が大きくなるほど回折点の強度(I)の統計精度が向上することを意味する.(大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻溝端栄一)モンテカルロ積分アルゴリズムMonte Carlo Integration Algorithm振動法によるX線結晶回折実験では,連続するイメージにまたがって写る部分反射は,各イメージの反射強度を足し合わせることにより完全反射に相当する強度を得ている.一方,連続フェムト秒微結晶構造解析法(SFX, SerialFemtosecond X-ray crystallography)ではイメージはすべて静止写真であり,得られるのは部分反射強度である.しかし,前後の回折イメージは別の結晶由来なので振動法のように完全反射強度を求めることはできない.さらに1ショットごとに結晶の大きさ,形,方位,ビーム強度,スペクトルさえも異なる.それでも1つの指数について多数の部分反射強度データがあれば,反射の三次元プロファイルをサンプリングしていると考えられるので,それらの強度を平均した値は積分強度と比例した値と期待できる. R. A.Kirianらにより理論的に示されたアルゴリズムである.(大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻溝端栄一)指数付けの多義性Indexing Ambiguity連続フェムト秒微結晶構造解析法(SFX, Serial FemtosecondX-ray crystallography)で測定した回折データにおいてみられる,いわゆる手系問題である. 1つの結晶から振動法日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)で測定した回折データの場合は,最初に一義的に決まった指数で処理ができる.しかしSFXでは, P3, P4, P6系統の空間群で処理した結果は擬似的な双晶状態になってしまう.これは,数千から数十万個の結晶からの反射を記録したイメージ1枚1枚ごとに指数付けを行うため,同じ長さの軸の取り扱いが2種類生じるからである.その他の空間群,例えば単斜晶系においても,格子の取り方により軸長や角度があまり変わらない(振動法では容易に判別可能)場合には,見かけ上双晶となる. K. Diederichsらはこの問題を解決する,クラスタリングを用いたアルゴリズムを開発している. 1)1)W. Brehm and K. Diederichs: Acta Cryst. D70, 101, (2014).(大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻溝端栄一)散乱長密度Scattering Length Density中性子散乱における散乱能は散乱長と呼ばれ,原子や分子などの散乱長をその物質単位の体積で割ったものは散乱長密度と呼ばれる.これはX線が原子中の電子により散乱される場合の原子散乱因子および電子密度に相当する.原子散乱因子は原子番号に比例して増加するのに対し,中性子の散乱長は原子番号に依存せず核種によって正または負の値をとる.例えば重水素と軽水素は散乱長が大きく異なるため,中性子小角散乱実験では,溶質を重水素化したりあるいは溶媒の重水と軽水の比率を変えることで溶媒と溶質のコントラストを自由に変更できる(コントラスト変調法).(静岡県立大学薬学部橋本博)全Z全syn型らせん構造All-Z-all-syn-type Helical StructureZは,ドイツ語のzusammen(一緒に)に由来する立体化学の記号で,基準とする置換基が二重結合を挟んで同じ側に位置することを意味する.また,炭素-窒素間あるいは窒素-窒素間の二重結合による幾何異性の場合は,代わりにsynと表記する.ビリベルジンIXα(以下,ビリベルジン)はピロール環を4つ含んでおり,(Z, Z, Z, syn, syn,syn)になる.ビリベルジンは,ヘムのαメソ位が開環し生成した炭素両末端に酸素原子が1つずつ(計2つ)結合した構造をとる.そのため,ヘムと同様のコンフォメーションをとろうとしても,酸素原子同士の立体障害のために平面内には収まらない.平面から酸素原子がそれぞれ上下にずれるようなコンフォメーションをとり,らせんを形成する.ビリベルジンが直鎖状にならないのは,ピロール環同士の複数の分子内水素結合で安定化されているためではないかと考えられている.(茨城大学大学院理工学研究科応用粒子線科学専攻海野昌喜)285