ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

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概要

日本結晶学会誌Vol56No4

クリスタリットHiLiDe法High Concentrations of Lipid and DetergentABC多剤排出トランスポーターABC Multi-drug TransporterABC(ATP-Binding Cassette)多剤排出トランスポーターは, ATPの加水分解によって生じるエネルギーを利用して,多種多様な化合物を細胞外へ排出する輸送体膜タンパク質である. ATP-Binding Cassetteと称されるよく保存されたATP加水分解ドメインをもつ.このトランスポーターは,生体内に侵入した外来異物を排出する生体防御に重要な役割を果たす.一方で,癌細胞で過剰に発現することによって多剤耐性の原因となることが知られている.代表的なものに, P糖タンパク質(別名MDR1, ABCB1),Multidrug resistance-associated protein 1(MRP1,別名ABCC1), Breast Cancer Resistance Protein(BCRP,別名ABCG2)がある. ABC多剤排出トランスポータータンパク質は,基本的に, ATPの加水分解を担う2つのヌクレオチド結合ドメインと,基質輸送を担う2つの膜貫通ドメインから構成されている.これら4つのドメインは, 2つの別々のポリペプチド,あるいは, 1つのポリペプチドとして存在する.前者はハーフサイズ,後者はフルサイズのトランスポーターと呼ばれる.(京都大学物質-細胞統合システム拠点小段篤史)RaPIDシステムRandom Peptide Integrated DiscoverySystem10 12以上の多様性をもつ環状ペプチドライブラリーの構築とそのライブラリーから標的タンパク質に対して強力に結合する環状ペプチドをin vitroで迅速に選抜するシステム. 1)東京大学の菅裕明教授により確立された.環状ペプチドライブラリーは人工リボザイムにより合成され,そこに含まれるペプチドはそれぞれの鋳型であるmRNAと共有結合により連結されているため,標的タンパク質に特異的に結合するペプチドを濃縮することができるだけでなく,最終的には連結されているmRNAの配列を解読することでアミノ酸配列を知ることができる優れた方法.1)Y. Yamagishi, et al.: Chem. Biol. 18, 1562 (2011).HiLiDe(High concentrations of Lipid and Detergent)法は高濃度の脂質・界面活性剤とともに膜タンパク質を結晶化する手法である.添加した脂質や界面活性剤によって形成された二重膜に膜タンパク質が再構成され,それが積み重なって結晶が成長する(TypeI結晶,本誌参照).膜タンパク質を脂質環境下で結晶化することができるという利点がある. HiLiDe法により膜タンパク質のX線結晶構造解析が行われた例としては, P型ATPaseであるCopAの構造解析が挙げられる. 1)1)P. Gourdon et al.: Nature 475, 59 (2011).(東京大学理学系研究科生物科学専攻熊崎薫)Bicelle法Bicelleジミリストイルホスファチジルコリンのようなリン脂質とCHAPSOのような界面活性剤を混合すると,リン脂質により形成された二重膜の疎水性部位が界面活性剤によって覆われたディスク上の構造体が形成される.この構造体はBicelleと呼ばれる. Bicelle法は,膜タンパク質をBicelle内部の脂質二重膜に再構成し,結晶化する手法である. LCP法やHiLiDe法と並び, TypeI結晶を作ることができる手法の1つ. Bicelle法により膜タンパク質のX線結晶構造解析が行われた例としては,βバレルタンパク質であるBamAの構造解析が挙げられる. 1)1)N. Noinaj et al.: Nature 501, 385 (2013).(東京大学理学系研究科生物科学専攻熊崎薫)QM/MM法QM/MM Methodタンパク質などの巨大分子の振る舞いを,計算機で解析するための代表的な理論計算手法.化学反応による結合の生成や開裂,分子の励起状態や磁気的性質など,電子状態の顕わな記述が必要な部分には高精度の量子計算(QM,Quantum Mechanics)を,精密な電子状態を考慮する必要がない周辺部分には経験的な古典分子力場(MM,Molecular Mechanics)を用いた近似計算を行う.これら2つの計算手法を組み合わせることで,現実的な時間内に,必要な精度をもつ理論計算を行うことができる.現在,酵素反応に代表される生体高分子の分子計算においては,最も定量性があり信頼できる計算手法とされており,多くの適用事例が報告されている.(京都大学大学院理学研究科藤橋雅宏)(京都大学物質-細胞統合システム拠点小段篤史)284日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)