ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

日本結晶学会誌56,279-280(2014)タンパク質結晶学の変遷大阪大学大学院工学研究科福山恵一X線解析の原理は変わらないが,その利用や適用については様変わりしてしまった.タンパク質結晶学の分野に限っても,当時最新であった技術は10年経つとあたりまえのものになり, 20年経つとその存在さえ忘れ去られてしまう.どの時代のことを述べているのかはっきりさせないと,話自体成立しない.筆者はタンパク質結晶学に約40年間携わってきたが,この間にどのようにタンパク質結晶学が変遷してきたかをここで振り返ってみようと思う.そうすることにより,次世代を担う人々がこれからどう取り組むべきか,参考になれば幸いである.1.回折強度の測定についてX線解析をするには,回折強度を測定することから始めることは昔も今も変わりがない. 40年前の日本では,測定する装置は4軸型自動回折計が最新であった.一反射ごとに結晶の方位から4軸値を計算し,そこで一定のスピードでスキャンし,その間のX線量をシンチレーションカウンターで測ったものである. X線源は封入管式の発生装置であったが, 1970年代の中頃回転対陰極発生装置が登場し強度が5~6倍になった.これを組み合わせた回折計だと1日に約3000反射が測定でき,またタンパク質のような弱い回折強度しか与えない結晶でも,適用範囲がその分広がった. 4軸型回折計だと結晶によるX線吸収の効果を一定にする必要があり,このため反射ごとに吸収補正を施した.何分最新装置であるから,当然最初は日本に1台しかなく,また非常に高価で,田舎の大学に居る者にとってはこの装置をもつことなど高嶺の花であった.この装置は非常に混んでおり,何カ月も待ってやっと使わせてもらうことができた.1980年代に入るとこのような装置の台数も次第に増加した.同じ頃日本では写真法が採用され始めた.その背景には,つくばのPhoton Factory(PF)で放射光が稼働し始めたことが大きい.放射光を利用する場合, 4軸型回折計で一反射ずつ測定するのは能率が悪い.ディテクターはX線フィルムで,回折点を一挙に記録する方式になり,まもなくフィルムに代わってイメージングプレート(IP)が登場した. 1980年代の後半になると,放射光を利用する場合,いわゆる坂部カメラが登場し,ユーザーがX線測定に全国からPFに集まるようになった.坂部カメラは操作が手動であったが,数時間で一結晶の測定ができるようになった.日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)結果, 1日のマシンタイムの間に7~8結晶の測定ができるようになった.ユーザーはIPをカセットに装着し,露光が終わるとIPリーダーに移すという作業を一日中絶え間なく続けたものである.ともあれ,それまで1カ月かかった測定が,数時間でしかも精度よく回折強度を測ることができるようになり, 1年に数日しか割当がないビームタイムを,おろそかにするという想いにはならなかった.なお,実験室における装置も, 1990年代に4軸型回折計から二次元ディテクターを備えた装置に切り替わっていった.2000年代に入るとPFに加えて, SPring-8が稼働し始めた.その後数年経つと, IPに代わってCCDが登場した.これにより測定は自動でできるようになり,ユーザーは測定操作に掛りっきりでなくともよくなったし,測定スピードも向上した.その結果,測定を進めながら結晶の評価やプロセスができるようになった.その場で電子密度を描くことや検討も可能になった.さらに進んで,結晶のマウントまでも自動でできるようになり,必ずしもユーザーがビームラインにいなくともよくなった.ビームライン数が増え,測定自体に手がかからなくなると,ユーザーの回折強度測定に対する意識も変わった.その1つにそれまで強度が弱くて測定できなかった結晶に対して,振動角を小さくして(振動写真の枚数を増やして), S/Nを向上させる測定がより顕著になった.このほかに,近年では一段と絞られたX線ビームラインも登場し,これまで測定不可能とされていた小さな結晶も視野にいった.最近ではXFELが登場している.以上のように測定装置や方法の進歩により,測定者・研究者の回折強度測定に関する意識は激変し,実験室において4軸回折計や,放射光施設で一世を風靡した坂部カメラは姿を消した.研究室におけるX線発生装置も主流でなくなり,代わって例えば遺伝子操作をするスペースに模様替えとなった.2.解析計算について回折強度データを電子密度(構造)に変換するステップが,解析計算の主なものであろう.今から40年前(1970年代)といえば,日本で最初のタンパク質の構造が出かかる頃である.解析プログラムは世界のどこをみてもまとまったものはなく,各所でそれぞれ細々と開発されていた頃である.その頃は,コンピュータ自体発展をし始めた頃で,279