ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

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概要

日本結晶学会誌Vol56No4

構造から見るジフテリア菌由来ヘム分解酵素のヘム取り込みと反応最終段階のメカニズム図6HmuO反応最終段階の反応機構.(Schematic representation of the iron release from the Fe 3+ -biliverdin complex.)今回,反応最終段階中間体として得られた構造は点線の四角で囲んだ2つの状態の混合だと考えられる.反応に必須の役割を担う. 11),12)水を含むHOの構造が基質のヘムに誘導され形成していくことがわかる. 16)3.2鉄の解離機構Fe 3+ -ビリベルジン結合型HmuO,ビリベルジン結合型HmuOそしてそれらの中間体構造の直接的な比較から,HmuOからの鉄の解離機構を提案することができる.鉄はFe 3+からFe 2+に還元されて, His20の配位が外れる.その結果, His20はコンフォメーションを変え,空間ができる.その空間からFe 2+が溶媒側に抜けていき,その空間を埋めるように新たな水が入り込む.その水は, His20のNεとビリベルジンの2つのピロールの窒素原子それぞれと水素結合を形成する.この水分子の存在があり,ビリベルジンはHis20と間接的に繋がれ,その場に安定的に結合している(図6). 16)3.3ビリベルジンの解離に伴う構造変化哺乳類では, HO反応によって生成したビリベルジンは,ビリベルジン還元酵素によってビリルビンに変換する.ビリベルジンのHOからの解離は,ビリベルジン還元酵素がHOに結合することで促進する. 21)一方,細菌ではビリベルジン還元酵素に相当する酵素がまだわかっておらず,ビリベルジンの運命は未解明である.しかし,この研究では,少なくとも,ビリベルジンが解離した後,どう酵素が構造変化を起こし,次のヘム結合に備えるかが明らかになった.結晶構造だけでなく分子動力学計算を合わせることで,近位ヘリックスの一部がループ状に構造変化し,結果として,第2ヘリックスや遠位ヘリックスも動き,ポケットを開く.また,協同的に,開いたポケット側にAsn204やArg132が動き,ヘリックス間をつないでいた水素結合がなくなることで,柔軟性も増し,次の基質ヘム結合に備える様子が動画的に可視化できた. 16)4.おわりにこの研究では,ジフテリア菌由来のHOであるHmuOの基質非結合型と生成物結合型の高分解能の構造解析に併せ不安定な反応中間体の構造解析を行うことによって,基質を結合する際あるいは生成物が解離する際の二次構造同士の相互作用の変化で,一次構造的には離れた部位が伝日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)播的に動くことを示した.また,分光学的手法を中心としたさまざまな研究により, HmuOと哺乳類HOのヘム分解反応機構がほぼ同じであることは明らかにされているが,(分光学での研究が難しい)ヘム結合前や生成物解離前後の機構が必ずしも同様でないことが示唆された.哺乳類のビリベルジン還元酵素に相当する酵素が,ジフテリア菌には見つかっていないことなどから,別の機構があって不思議ではない.また,分子動力学計算は,スナップショットともいえる結晶構造解析の「抜けている」部分を補完する手法として,大きな貢献をすることも示した.酵素の分子機構を研究する手法として有効な手段の1つである.この研究を報告した論文(文献16 ))は, J. Biol. Chem. 288(2013)のPapers of the Weekに選ばれ,高い評価を得た.謝辞この研究は,分子動力学計算を担当したArdevol, A.とRovira, C.(スペイン,バルセロナ大ほか)との共同研究である.また, PF, SPring-8における放射光実験では,ビームラインの方々に大変お世話になった.理研(城生体金属化学)では,共同研究員としてご配慮いただいた.この場をお借りして皆様に感謝いたしたい.文献1)M. D. Maines: Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol. 37, 517 (1997).2)例えば, S. I. Beale and J. Cornejo: Arch. Biochem. Biophys. 235,371 (1984)など.3)C. A. Genco and D. W. Dixon: Mol. Microbiol. 39, 1 (2001).4)M. Unno, T. Matsui and M. Ikeda-Saito: Nat. Prod. Rep. 24,553 (2007).5)M. Sugishima, H. Sakamoto, Y. Kakuta, Y. Omata, S. Hayashi,M. Noguchi and K. Fukuyama: Biochemistry 41, 7293 (2002).6)L. Lad, D. J. Schuller, H. Shimizu, J. Friedman, H. Li, P. R.Ortiz de Montellano and T. L. Poulos: J. Biol. Chem. 278, 7834(2003).7)C. M. Bianchetti, Y. Li, S. W. Ragsdale and G. N. Phillips, Jr.:J. Biol. Chem. 282, 37624 (2007).8)S. Hirotsu, G. C. Chu, M. Unno, D. -S. Lee, T. Yoshida, S. -Y.Park, Y. Shiro and M. Ikeda-Saito: J. Biol. Chem. 279, 11937(2004).9)L. Lad, J. Friedman, H. Li, B. Bhaskar, P. R. Ortiz de Montellanoand T. L. Poulos: Biochemistry 43, 3793 (2004).275