ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

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概要

日本結晶学会誌Vol56No4

海野昌喜,齋藤正男密度の広がりがわかったという進展がある.軸配位子のHis20の結合長は,ヘム結合型に比べてやや長く,小さく振動していることが考えられる.また,鉄と各ピロール環の間の距離は非対称になり, EPRにより示唆されていたFe 3+ -ビリベルジンの非対称性を支持する結果となった. 20)ビリベルジン結合型HmuOとFe 3+ -ビリベルジン結合型HmuOの全体構造はほとんど変わらないが, Fe 3+との配位結合の有無の違いにより, His20のコンフォメーションが130°程度回転していた(図4).また, His20は位置も移動しており,結果として,近位ヘリックスや遠位ヘリックスの位置も少し動いていた. Fe 3+ -ビリベルジンのほうが結合ポケットは閉じた構造をしていた. 16)2.4.3 Fe 3+ -ビリベルジンとビリベルジンの中間体の構造ビリベルジンは, Fe 3+ -ビリベルジンの鉄が1電子還元され,鉄が解離することによって生成する.ソーキング溶液に鉄に配位結合するアジドを入れることによって反応を遅くした結晶の回折実験を行ったところ,新たな構造を得ることができた.結晶中の非対称単位3分子中の1分子のみ(B分子)であるが,ビリベルジンのように開環をしているが,中心に球状の電子密度が残っていた.しかし,His20に相当する電子密度は,そこから3.7 A離れていた.また, His20とビリベルジン両方に水素結合する位置に見られた水は存在しなかった.この構造は, Fe 3+ -ビリベルジン複合体とも異なり,ビリベルジン複合体にも相当しない.状況から, Fe 3+が還元されてFe 2+ -ビリベルジンとなり,鉄が部分的に抜けた状態で,まだ(ビリベルジンとHis20をつなぐ)水分子が入ってくる前の構造であると解釈した. Fe 2+ -ビリベルジンは,結晶中のような反応が非常に遅くなる環境でかつアジドを加えたことでさらに反応が遅くなったために見られた酵素反応中間体である.この構造は,鉄が抜けていく機構を考察するうえでも重要なものとなった. 16)3.構造から考えるHmuOの分子機構3.1ヘム結合機構既報のヘム結合型HmuO 8)と今回のヘム非結合型HmuOの構造および分子動力学計算から, HmuOのヘム取り込み機構は次のように考えられる. 16)まず,ヘムを結合していない状態では,ヘム結合ポケットは大きく開いた形になっている.短い近位ヘリックスが直線的になっており,それが二番目の短いヘリックスとループでつながっている.近位ヘリックスとループの境界は,非常に柔軟性に富んでいる.ヘム鉄がHis20と結合すると同時に,ヘムのプロピオン酸置換基が,ポケットの内部にあるTyr130とArg177と結合し,結合部位の構造を形成していく.その際に, Asn204がポケットに侵入してきたヘムに押されて,側鎖の向きを変え,遠位ヘリックスのArg132や近傍のTyr109と水素結合を形成する(図5).この結合が構造を強固にする.また,近位ヘリックスと二番目のヘリックスの間のループの中にあるGlu24は向きを変え, His20と相互作用する.その構造変化により,そのループの一部がヘリックスを形成するため,ヘリックスの長さが伸びて湾曲し,ループの長さが短くなる.その結果,二番目のヘリックスが近位ヘリックス側に引き寄せられ,それと相互作用している遠位ヘリックスもポケットを閉じる方向に動く.遠位ヘリックスはGlyが集中した個所で屈曲して安定した構造になる.ヘム非結合型HmuOでは, Asn204やArg132, Asp136と水素結合する水分子が見つかっており,ポケット形成部位にあるそれらの残基の構造変化とともに動き,水分子クラスターを形成すると考えられる(図5).この水分子クラスターを含んだ水素結合ネットワークが,ヘム鉄に結合する酸素結合の安定化,酸素の活性化,プロトンの供給経路,ヘムαメソ位への酸素の配向などヘム分解という特異な図4HmuOのFe 3+ -ビリベルジンとビリベルジンの構造の違い.(Structural differences between the Fe 3+ -biliverdin HmuO and the biliverdin-HmuO.)図5ヘム結合による水素結合ネットワークの形成.(Hydrogenbondingnetwork before and after heme-binding.)ヘム結合型とヘム非結合型構造の重ね合わせ.274日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)