ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

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概要

日本結晶学会誌Vol56No4

海野昌喜,齋藤正男とである(図1).近位ヘリックスと新しく形成したループの境界領域数残基に対する電子密度が不明瞭で,温度因子はほかの部分と比較すると際立って大きく,その領域が伸びたり巻いたりという二次構造変化をしていることが示唆される.ループ状になった領域はヘム結合部位から離れる方向に広がっており,ヘム結合型で近位ヘリックス中に存在していたGlu24は,ヘム非結合型では新ループの領域にあり,Cαの位置で11 Aあまり動いていた.また,遠位ヘリックスのArg132は,ヘム結合型では,ほかのヘリックス上のTyr109やAsn204と水素結合を形成していたが,ヘム非結合型ではその相互作用はなくなっており,遠位ヘリックスの後半領域が,ヘム結合部位から離れる方向に動いていた.さらに, Gly139, Gly140の周りには構造精密化後にも残余電子密度が見られ,ここにも動きがあることが示唆される.高い柔軟性と開いたポケットは,ヘム結合に有利な構造だと言えよう(図1).一方で,ヘムのプロピオン酸と水素結合や塩橋を形成するTyr130やArg177は,ヘム結合型と比べて位置をほとんど変えていなかった. 16)2.2.3分子動力学シミュレーションHmuOの構造解析から,ヘムの結合前後(ヘムの有無)で,近位ヘリックスの二次構造が変わるという大きな構造変化があることがわかった.これは,哺乳類のHOの構造では見られない(ただし,ラットHO-1の構造解析では,近位ヘリックス自体が見えていない). 5)二次構造の変化は大きなエネルギーを要するであろうから,一見不合理な構造変化にも思えるが,ヘム結合型の近位ヘリックスが大きく湾曲していることを考えると,ヘムがない状態では,矢を放った弓のように,近位ヘリックスが大きく構造変化しても不思議でないようにも感じる.2つの構造を眺めていても,本当のところはわからない.そこで,われわれは,ヘム結合型HmuOの構造からヘムを外したものを出発座標とした分子動力学計算を行った.その結果, 45~53 nsのとき, Glu24のCαは,出発座標から12 A程度動き,近位ヘリックスが部分的にほどけた構造になった.これは,われわれが決定したHmuOの構造と主鎖レベルで非常によく重なり合う.ヘム結合に重要なTyr130, Arg177は非常に柔軟性が高くなっていることも示唆された.いくつかのアミノ酸残基の側鎖の動きには違いが見られたが,分子動力学計算によって,われわれの解析した基質非結合型HmuOの構造がおおむね妥当であることが示された. 16)2.3生成物結合型HmuOの構造2.3.1ビリベルジン結合型HmuO結晶の作製ビリベルジン結合型HmuO結晶は,ヘム結合型の結晶に還元剤としてアスコルビン酸を加え,酵素反応を結晶中で起こさせて得た.この方法は,ラットHO-1のFe 3+ -ビリベルジン結合型の構造解析でとられた方法と類似の方法である. 17)哺乳類のHO-1は,アスコルビン酸による還元では鉄が抜けるところまで反応が進行せず,ビリベルジンが生成しない.一方,上述したビリベルジン結合型ヒトHO-1の構造解析では,精製試料を集め,そのうえで,十分な質のビリベルジン複合体を得るために,過剰にビリベルジンを加え,複合体再構成を行っている.再構成後に残った過剰な遊離ビリベルジンは,脱塩カラムで除いている. 9)ビリベルジン結合型HmuO結晶のX線回折実験は, PF-ARのNW12Aで行ったが,構造精密化の途中でさらに高分解能のデータが, SPring-8 BL44B2(実験当時はタンパク質結晶用ビームラインだった)で得られたので,それを最終構造用のデータとした.結晶系はヘム結合型HmuOとほぼ同じであり,反応により結晶系を変化させるようなことはなかった.空間群はP2 1で,格子定数はa=54.1 A,b=62.5 A, c=107.6 A,β=100.7°である.非対称単位には, 3分子が存在する.初期位相は,ヘム結合型HmuOからヘムを除いた構造を初期モデルとして,分子置換法により決定した. 16)2.3.2ビリベルジン結合型HmuOの構造分解能1.85 Aで決定したビリベルジン結合型HmuOの全体構造では,ヘム結合ポケットがヘム結合型よりやや開いていたが,二次構造の変化などはなく,ヘム非結合型に比べれば,ヘム結合型に似ていた.主な構造の違いはヘム結合型で軸配位子だったHis20のコンフォメーションである.ヘム鉄から解放されたHis20はその場から離れる方向に動いており,側鎖が寝るような構造をとり,五員環の平面も回転していた. His20とビリベルジンの間には,水分子が入り込んでおり,ビリベルジンの4つのピロール環のうち2つと水素結合をしていた(図2).HmuOに結合したビリベルジンはヘリカルな構造をしていた.これは,ほかのタンパク質に結合したビリベルジンと同様な構造である(図2). 10)一方で,ヒトHO-1と結合したビリベルジンとは結合様式もコンフォメーションもまったく異なっていた(図3A)(ビリベルジン結合型結晶図2 HmuOのビリベルジン結合結合部位の構造.(Thebiding site of biliveridin in HmuO.)272日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)