ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

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概要

日本結晶学会誌Vol56No4

構造から見るジフテリア菌由来ヘム分解酵素のヘム取り込みと反応最終段階のメカニズムン結合型のHOの構造である.ヘムが開環して生成するビリベルジンは,酵素と配位結合する鉄がすでに抜けた化合物であり,ヘムに比べてHOへの結合が弱いこともあり,ビリベルジン結合型のHOの構造解析はヘム結合型に比べ難しい.今までにビリベルジンを結合したHOの構造は,ヒトHO-1の1報しか報告されていなかった. 9)しかも,発表された論文で示された電子密度図は非常に不明瞭なものであり,構築されたモデル中のビリベルジンは,ほかのタンパク質に結合したビリベルジンの共通したヘリックス様の構造(all-Z-all-syn-type helical structure)10)とはかけ離れた構造であった. 9)ビリベルジンのγメソ位が二重結合を保持した平面性を有していることを考えると,その構造には無理がある.また,プロトン経路となり,酸素結合の安定化と酸素活性化を担うヘム遠位側の水分子のクラスター11),12)が,ビリベルジン結合型ヒトHO-1の構造では存在しない. 9)ビリベルジンが生成するまで重要な役割を担っていた複数の水分子がその場から消失することは不自然である.とはいえ, HOにより生成したビリベルジンは,酵素中でそのような特異な構造をとるのかもしれない.ジフテリア菌由来HmuOがどのように生成物を保持しているかは,その時点では不明であった.2.HmuOの構造2.1既報のヘム結合型HmuOの構造今回の研究結果の紹介に入る前に, HmuOの構造について簡単に触れたい. HOは,病原性細菌由来のものから哺乳類由来のものに至るまで共通の全体構造をしている.われわれが構造機能相関の研究を行ってきたジフテリア菌のHmuOは,哺乳類以外の生物から初めて単離・精製されたもので,可溶性タンパク質である.一方,哺乳類のHOは, C末端に細胞膜にアンカーする短い部位を有している. HmuOのアミノ酸配列は,ヒトHO-1の可溶性部位221残基と33%同一であり, 13)同定されている病原性細菌のHOの中で,最もヒトHO-1に類似している(ちなみに,X線結晶構造が報告されている哺乳類のHOも,すべて,可溶性部位のみを発現させて得たドメイン構造である). 14)HmuOは,球状の単純タンパク質であり,αヘリックスとそれをつなぐループ構造からなる.ヘムの両面を近位ヘリックスと遠位ヘリックスで挟み込んでいる.近位ヘリックスには,ヘム鉄の軸配位子となるHis20があり,近位ヘリックスは湾曲したような構造をしている.一方,遠位ヘリックスには,ヘム鉄の配位子は存在しない.遠位ヘリックスにはGlyに富んだモチーフがあり,そこで屈曲している.結合したヘムは,その屈曲した部位近傍に位置する. 8)ヘム鉄に結合した酸素は,遠位ヘリックスの屈曲した個所に存在する2つのGly(Gly135, Gly139)で挟み込まれる.この特徴が,酸素分子の軸(O-O)がヘムα位方向に配向される構造的要因の1つである.酸素分子は遠位ヘリック日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)スに押さえつけられており,ほかのヘムタンパク質に結合したものよりFe-O-O角が急角度をなす(約110°)ことで末端の酸素原子がヘム水酸化部位(ヘムαメソ位)に近づく. 15)遠位ヘリックスとヘムの間のヘム遠位ポケットには,水素結合ネットワークを形成する水分子クラスターが存在している. 11),12,15)酸素の結合が安定化される要因の1つは,そのクラスター中の水との水素結合のためである.また,その水素結合ネットワークはプロトン経路としての役割も担っていると考えられており,遠位ヘリックス中にある必須のアミノ酸Asp136を介して分子表面までつながっている.水分子クラスターとAsp136の重要性は,変異体の研究によって確かめられている. 11)ところで, HOの研究は,大腸菌による大量発現系によって得られる酵素を使って行うのが一般的になっているが, 14)その場合,基質であるヘムは人為的に加えられ,ヘム複合体が「再構成」される.基質が結合しても分解反応が進まないのは,この酵素の反応には,酸素と電子が必要だからであり,電子を与えるような操作をしなければヘム複合体は安定である. 4)2.2ヘム非結合型HmuOの構造2.2.1 HmuOの精製・結晶化・構造解析精製までの操作は,ヘム結合型HmuOの研究をする時と同様に行ったが,今回は当然ながらヘム複合体「再構成」を行う前の酵素単独の試料を用いた.酵素精製時には,ビリベルジンが生成し,少量だが残っている可能性もあるが,今回,結晶化に用いた酵素溶液はほぼ無色透明であった(ビリベルジンは濃緑色である).PEG8000を沈殿剤とした条件で,基質非結合型HmuOの柱状結晶を得た. X線回折実験は,つくばのPhotonFactory(PF)のBL5Aで行い,結晶の空間群はP2 12 12 1に属し,格子定数はa=57.5 A, b=61.9 A, c=63.1 Aであった.非対称単位には1分子のHmuOが含まれていた. 16)2.2.2ヘム非結合型のHmuOの分子構造構造は,分解能1.8 Aで解析した.全体構造は,ヘム結合型と似ているが,最も目を引く構造の違いは,ヘム結合型HmuOの近位ヘリックスの一部分に相当する部位が,ヘム非結合型HmuOではほどけてループ状に変化していたこ図1ヘム非結合型(左)とヘム結合型(右)HmuOの全体構造.(Overall structures of the substrate-freeHmuO(left)and the heme-HmuO complex(right).)271