ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

日本結晶学会誌56,270-276(2014)最近の研究から構造から見るジフテリア菌由来ヘム分解酵素のヘム取り込みと反応最終段階のメカニズム茨城大学大学院理工学研究科応用粒子線科学専攻東北大学多元物質科学研究所タンパク機能解析研究分野海野昌喜齋藤正男Masaki UNNO and Masao IKEDA-SAITO: Structural Study for the Heme-binding andSubstrate-release Mechnisms by Heme Oxygenase from Corynebacterium diphtheriaeHeme oxygenase(HO)is a unique enzyme that catalyzes the conversion of heme to biliverdin,carbon monoxide and free iron. The enzyme is present in not only mammal but also plant, algaeand pathogenic bacteria. In order to understand mechanisms of the substrate binding and theproduct release of bacterial HO, we have determined the crystal structures of the substratefree,Fe 3+ -biliverdin-bound, biliverdin-bound forms and reaction intermediates between the lattertwo states of HmuO, a heme oxygenase from Corynebacterium diphtheriae. In addition to thesehigh resolution structures, we have conducted molecular dynamics simulation for the hemebindingand bilivedin-release. The substrate-free HmuO shows a widely open active site whichis formed by a partially unwoundedα-helix. The water molecule cluster is rearranged when thesubstrate is bound to HmuO. Upon reduction of Fe 3+ to Fe 2+ , the axial histidine dissociatesfrom Fe 2+ , followed by the relase of Fe 2+ from the biliverdin group. The water moleculecomes into the resulted space and forms hydrogen bonds between the axial histidine and thesubstrate biliverdin. From these results, we can discuss the molecular mechanism of HmuO atatomic level.1.はじめにヘムオキシゲナーゼ(HO)は,ヘムを酸化的に分解し,一酸化炭素(CO),鉄,ビリベルジンを生成する酵素である. 1)この酵素の生理的役割は,古くなったヘムの分解だけでなく,鉄の恒常性維持やビリベルジン(その後,別の酵素によって変換されるビリルビン)の抗酸化作用による生体防御, COの神経伝達物質としての作用によるシグナル伝達など,重要かつ多岐にわたっている.また,植物などの光合成生物では,ビリベルジンが,光合成や光センシングに使われる色素の前駆体になっている. 2)いくつかの病原性細菌にもHOがあることがわかっており,その役割は,自身の増殖や生存に必要な鉄を宿主から獲得することである.また,獲得した鉄は,病原性の発現にも関与している. 3)HOはその生理的重要性にも増して,その反応機構に興味がもたれてきた酵素である. HOは,ヘム酵素ではないが,基質であるヘムを結合した後は,あたかもヘム酵素のように振る舞う.つまり,ヘムを活性中心として使い,酸素を活性化する酸素添加酵素である.シトクロムP450やペルオキシダーゼなどのほかのヘム酸素化酵素との反応の違いを解明するために,複数のグループがさまざまな種のHOのさまざまな状態の構造を報告してきた4)が,「ヘム酵素」のようになる前の構造,つまり,ヘム非結合型については報告例が少なく,哺乳類のHO-1とHO-2の構造しか解明されていない. 5)-7)言うまでもなく,ヘムの結合は,この酵素が「ヘム酵素」として働くために必須の段階である.しかし,哺乳類のHOの構造を基にしても,病原性細菌がヘムを取り込む機構は説明できない.例えば,ラット由来HO-1のヘム非結合型の構造では,近位ヘリックスの構造が決定できていないが,ヘム結合に際して,結合部位近傍にあるGlnとほかのアミノ酸の主鎖カルボニルとの水素結合が形成され,構造が安定化されることが提案されている. 5)しかし,われわれが構造と機能の相関を研究してきたジフテリア菌Corynebacterium diphtheriae由来のHOであるHmuO 8)では,前述のラットHO-1のGlnに相当する残基はLeuで,ほかの病原性細菌ではValというように疎水性残基であるため,水素結合は形成しえない.ゆえに,病原性細菌由来のHOには,哺乳類HO-1の構造から提唱された機構とは別の機構があることが強く示唆される.また,分解能の不足からか,ヘム分解活性に重要であることが示唆されてきた水分子の存在が,ヘム非結合型HO-1, HO-2ではほとんど見られず, 5)-7)活性部位に,水分子のクラスターを介した水素結合ネットワークが,どのように構築されるのかが不明のままであった.さらに問題点が残されていたのが,生成物・ビリベルジ270日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)