ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

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概要

日本結晶学会誌Vol56No4

X線CTR散乱法による薄膜界面構造の直接的構造決定ことが知られている. Siアドアトムの電子密度はBi原子層の約6%と希薄であり明瞭にイメージングできていないが,この存在を仮定すると, Siアドアトムと界面濡れ層の距離は約2.7 Aとなる.これはBi-Siの共有結合半径和である2.6 Aに近く,両者は強く相互作用していることが示唆される.このことは,走査型トンネル顕微鏡によって観察されていたSiアドアトムの周りにBiが強く吸着する様子を説明する. 40)界面濡れ層とBi薄膜の距離は3.2 Aであり,結晶中のBi層間距離より約0.85 A大きいため,相互作用は非常に弱いことを示している.一方,図7bにおいてBi薄膜内の層間距離は点線で示したバルク格子位置とほぼ一致しており,表面側と界面側において原子位置に大きな差違はない.これらを合わせると,反転対称構造をもつBi薄膜がほぼ自立(free-standing)した状態にあると結論される.この結論をRashba効果と関係づけて考える. Rashba効果は空間反転対称性の破れによるポテンシャル勾配が有効磁場として働くことで生じる電子スピン分裂である.当初, Bi薄膜は表面と界面で異なる環境にあり,反転対称性の破れから薄膜内部の量子井戸状態がRashba分裂することが期待されたが,実際には観測されなかった. 37)この実験事実はわれわれが示したBi薄膜の反転対称性構造によってただちに理解される.また最近では, Bi薄膜の反転対称構造から期待されるとおり,表面と界面のRashba効果が干渉する様子が観測されている. 38)3.2 Bi/Bi 2Te 3トポロジカル絶縁体超薄膜界面次にトポロジカル絶縁体薄膜界面の解析例を示す. 42)トポロジカル絶縁体は,バルク内部は絶縁体であるが,表面にはスピン偏極した金属状態が現れる新しい量子相である. 43),44)この表面電子状態はバルクの固有状態によって決定されるため,表面を作ることで必然的に現れる.しかも非磁性不純物の外乱に対してロバストであるという,従来の表面状態とは一線を画す性質をもつ.次世代スピントロニクスや量子コンピューティングへの展開が期待されている注目物質であり,理論と実験の両面から新物質探索が行われている.物質探索の新しい切り口として,圧力印加によって非トポロジカル物質をトポロジカル物質に相転移させる方法が提案されている. 45)われわれは, Bi薄膜をトポロジカル絶縁体Bi 2Te 3薄膜上に成長させ,エピタキシャル格子歪みによる実効的な圧力印加によってBiがトポロジカル相転移する, 46) Bi/Bi 2Te 3積層薄膜の構造を調べた. 42)トポロジカル絶縁体界面の非破壊イメージングの報告はこの研究が最初である.直接的構造解析の手順は前節のBi薄膜の研究と同様であるため,ここでは解析結果のみを示す.図8は解析結果の電子密度プロファイルである.各原子層を成分分離したものであり, Te-Bi-Te-Bi-Te五重層(Quintuple layer, QL)が7つ(厚さ~7 nm),その上にBi二重層が7つ(厚さ~日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)図8 Bi/Bi 2Te 3薄膜/Si界面の電子密度分布.(Electrondensity profile of the Bi/Bi 2Te 3-film/Si interface.)3 nm)積層している. Bi層の構造については,二重層内の面間隔がバルク値に比べて3%伸び,二重層間が6%伸びていることがわかった.一方,測定した二次元格子定数から得られた面内の圧縮歪みは約3%であった.これらの値は第一原理的に計算されたトポロジカル相転移が生じる格子歪みとぴったり一致しており,光電子分光法で観察されたトポロジカル電子状態の起源を証明している. 46)一方,歪みテンプレートに用いたBi 2Te 3はトポロジカル絶縁体の代表物質であり,薄膜化の研究が盛んに行われている.とりわけ,シリコン電子デバイスとの互換性を視野に入れたSi基板上の薄膜成長が重視されており,界面構造や成長過程に関心が寄せられている. Bi 2Te 3/Si界面に注目すると,図8に示すように界面濡れ層が形成していることがCTR散乱ホログラフィによって見出された.解析で得られた電子数とSeリッチな成長条件から考察すると,界面濡れ層は約2原子層分のSeで形成されていることが示唆された.界面濡れ層とBi 2Te 3薄膜の距離は約3.2 Aであり, Bi 2Te 3はほとんど自立した状態にあることがわかった.このことは,光電子分光において観察されていた,表面と界面のトポロジカル表面状態の干渉効果を自然に説明する. 47)また,以下のように薄膜成長過程に関する知見も得られている. Si(111)基板上では, Bi 2Te 3はQLを単位として層状成長することが知られており, 47)成長中の反射高速電子線回折(RHEED)強度をモニターすると,層状成長を示す振動構造が現れる(図9の挿入図).図9は構造解析で得られた原子層幅である.最初の2つのQLにおいて原子層幅が大きく,構造不均一性が大きいことを示している.一方,挿入図のRHEED強度振動をみると,構造不均一性と対応して最初の2つのQLにおいて振幅が小さくなっている. Bi 2Te 3はQL間の相互作用が弱い層状物質であり,種々の基板上でvan der Waals成長することが知られている. van der Waals成長には平滑な基板が好まれるため,初期成長過程において,まず界面濡れ層がSi(111)-7×7267