ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

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概要

日本結晶学会誌Vol56No4

白澤徹郎,高橋敏男図5Bi(001)薄膜/Si(111)界面においてCTR散乱ホログラフィで再生された電子密度の実部.(Real partof the electron density profile of the Bi(001)-film/Si(111)interface, obtained by the CTR holography.)図7Bi(001)薄膜/Si(111)界面の構造パラメータ.(Structural parameters of the Bi(001)-film/Si(111)interface.)(a)電子数,(b)層間距離,(c)原子層幅.図6反復位相回復法で得られたBi(001)薄膜/Si(111)界面の電子密度分布.(Electron density profile ofthe Bi(001)-film/Si(111)interface, obtained by thephase-retrieval methods.)になる.一方,基板SiとBiとの界面接合は未定であるため,最も単純なモデルとして,基板と界面を無視したBi薄膜のみの構造を参照構造とした.実験データには基板からの散乱が当然含まれるが,この影響を極力減らすために,Braggピーク近傍のデータを除外して計算に用いた.CTR散乱ホログラフィで得られた電子密度分布を図5に示す.点線は参照構造であるBi薄膜の電子密度分布である. Bi薄膜の約3.2 A下に顕著なピークが再生されている.参照構造に基板を取り入れていない粗いモデルであるため雑音が大きいが,このピークだけは計算条件によらずに安定して現れたため,真の構造であることを示唆している.事実,この位置にBi原子層を加えたモデルで計算すると, R因子は0.28から0.14に改善した.次に界面濡れ層を加えた構造モデルを,反復位相回復法を用いて構造最適化し,図6に示す電子密度プロファイルを得た.位相回復にはSaldinらの方法とYacobyらの方法を用いた.得られた結果は同じであり,大域最小構造が得られたと考えられる.この電子密度をFourier変換すると図4の実線で示すCTR散乱プロファイルが得られた.実験との一致は非常に良い(R因子=0.025).電子密度プロファイルにおけるピークは原子層に対応し,ガウス関数でフィッティングして成分分離することで,各原子層の位置(ピーク位置),電子数(積分値),静的構造揺らぎによる原子層幅(半値全幅)の情報を得た. 39)この結果を図7に示す.図7aに示す電子数の絶対値は基板Siの値を基準にして求めたものであり,薄膜内部の値は,図中に点線で示すBi薄膜とSi(111)-7×7との格子整合から期待される値と一致している.表面近傍におけるBi原子層のピーク強度の減少は,表面ラフネスによるものである.界面濡れ層の構造については,図7aとcに示すように電子数と原子層幅ともにBi薄膜内部に比して約2倍の値であり,約2原子層分のBi原子が不規則に折り重なったものであることがわかった.界面濡れ層の存在は,薄膜成長初期過程における走査型トンネル顕微鏡の観察や, 40)透過型電子顕微鏡像41)により示唆されていたが,本研究によって初めて埋もれた界面の状態が非破壊的に解析され,定量情報が抽出された.次に,図7bに示す原子層間隔から,界面濡れ層と基板および薄膜との相互作用について考察を行った. Si(111)基板と界面濡れ層の間隔は4.1 Aである. Si(111)-7×7表面にはSiアドアトムが表面から約1.4 A上に存在する266日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)