ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

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概要

日本結晶学会誌Vol56No4

X線CTR散乱法による薄膜界面構造の直接的構造決定の原理に基づいた方法を提案し, 31)界面原子像の再生に成功している. 32),33)われわれがCTR散乱ホログラフィと呼んでいるこの方法の概念図を図3aに示す.ホログラフィは振幅と位相が既知である参照波F Rと被写体からの散乱波(物体波)F Oの干渉パターンから被写体を再生する方法である.このアナロジーで, CTR散乱Fを基板など既知構造の参照波F Rと,表界面など未知部分の物体波F Oの干渉と見なす.このときホログラム関数を次のように定義する.I Q Qχ( Q)= ( )? I ( ) R F= F + +F Q F F FR * 0*0 * 0FR( )(1)ここで,I(Q)=|F R(Q)+F O(Q)| 2は全体の散乱強度,I R(Q)=|F R(Q)| 2は参照波の強度である.式(1)の定義により,右辺第1項の物体波のFourier変換によって未知構造の電子密度分布を抽出することができる.右辺第2項の逆Fourier変換は共役像を与えるが,これはホログラムの実部をとることで低減される. 31)また,右辺第3項はF R≫F Oであれば無視できる.実際には第2項と第3項の影響が少なからず入るため,再生された電子密度は半定量的になるが,未知部分の直接的モデリングには十分な効果がある.モデル計算の結果を図3b, cに示す.参照構造はSi(111)上のFeSi薄膜であり,本来あるべき界面のSi原子を除いてある(図3bに,参照波を逆Fourier変換した電子密度分布の断面図に,真の構造モデル図を重ね描いた).図3cはχ(Q)のFourier変換の実部であり,界面のSi原子が再生されている.次章では筆者らが行った, CTR散乱ホログラフィと反R2*R復位相回復法を併用した界面構造の直接的構造解析例を紹介する.3.界面構造の直接的構造解析例3.1 Bi超薄膜界面Si(111)-7×7清浄表面上にBiを室温で蒸着すると,結晶性Bi薄膜が(001)配向でエピタキシャル成長する. 34)このBi薄膜表面では,次世代スピントロニクスデバイスの動作原理として注目されている,非磁性物質の表面電子状態におけるスピン分裂(Rashba効果)が発現することが見出されており, 35),36)膜厚依存性や界面の影響が議論されている. 37),38)われわれはCTR散乱の直接解法によってこの界面構造を明らかにした. 39)実験はKEK-PF BL15B2において,超高真空分子線エピタキシー装置を備えた表面X線回折装置を用いて行った.膜厚約6 nmのBi膜を作製し,その場でCTR散乱測定を行った.なお, BL15B2は2013年3月に閉鎖されたが,引き続き表界面のその場観察を行えるように,ポータブル超高真空試料セルを装備した分子線エピタキシー装置を導入している.図4は膜厚6 nmのBi薄膜において測定した鏡面反射CTR散乱プロファイルである. Bi薄膜の膜厚振動(Laue関数)とSi基板からの3本の鋭いBraggピークが見られる.横軸LはCTR上の点を指定する指数L=Q z/(2π/c)で,cはBi単結晶の格子定数11.86 Aである. Bi薄膜のLaue関数主ピークは整数値から約1%小さい位置にあり,エピタキシャル格子歪みによって薄膜の平均格子定数cが約1%伸びたことを示している.まず手始めに薄膜内部の平均格子定数cと表界面近傍の格子緩和とラフネスをパラメータにして最小二乗法で構造解析したところ,実験データとの一致は良くなく(R因子=0.28),不完全な構造モデルであることが示唆された.そこでCTR散乱ホログラフィを用いて未知構造を抽出した.計算条件は以下である.まず適当な参照構造を選ぶ必要がある.実験プロファイルには明瞭なLaue関数が観察されていたため, Bi薄膜の平均構造は良い参照構造図3CTR散乱ホログラフィのFeSi薄膜/Si(111)界面モデル計算.(CTR scattering holography for a FeSifilm/Si(111)interface model.)(a)概念図.(b)参照構造の(1 _ 10)Si面の電子密度分布.(c)再生された電子密度.計算には|H 2+K 2 | 1/2 ? 3, L ? 6のCTR散乱データを用いた(H, KはSi(111)表面二次元格子のMiller指数, Lはロッド上の点を指定する指数).図4Bi(001)薄膜/Si(111)の鏡面反射CTR散乱プロファイル.(The specular CTR scattering profile of theBi(001)-film/Si(111).)日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)265