ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

日本結晶学会誌56,263-269(2014)最近の研究からX線CTR散乱法による薄膜界面構造の直接的構造決定東京大学物性研究所,科学技術振興機構さきがけ研究員東京大学物性研究所白澤徹郎高橋敏男Tetsuroh SHIRASAWA and Toshio TAKAHASHI: Direct Structure Determination ofThinfilm Interface by X-ray CTR ScatteringWe report our recent approach to the direct structure analysis of X-ray crystal truncationrod scattering data for thinfilm interface structures. Our approach is a combination use of aholographic method and the iterative phase-retrieval methods, which are respectively used forthe direct construction of the initial structure model and the final refinement of the model.Results of the direct structure analysis for a Bi thinfilm and Bi/Bi 2 Te 3 topological insulatorthinfilm are presented. The holographic method successfully imaged out interfacial wettinglayers for both the systems. Structural parameters were derived quantitatively by using the phaseretrievalmethods, which are relevant to understanding electronic properties and film growthmechanisms at the interfaces.1.はじめにX線CTR散乱(X-ray crystal truncation rod scattering)はその名のとおり,結晶の電子密度が表面で裁断されることで生じるロッド状の散乱である.裁断された結晶の電子密度は結晶周期関数と表面に垂直なステップ関数の積で表され, X線散乱は各成分のFourier変換の畳み込みとして与えられる.すなわちデルタ関数(Braggピーク)と減衰関数1/Q z(zは表面に垂直な方向)の畳み込みとなり,図1のような表面に垂直なロッド状の散乱分布にな図1 CTR散乱の概念図.(Schematic of CTR scattering.)入射X線のEwald球とCTRが交差するとき回折条件が満たされる.日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)る. CTR散乱は表面構造に敏感であり, 1),2)構造解析によって原子位置,熱的(または静的)な構造揺らぎ,占有率などの結晶学的パラメータが得られる.薄膜結晶と基板結晶格子が整合するとき, CTR散乱波は基板の散乱波と薄膜層および界面層の散乱波との干渉波になるため,薄膜および界面の構造を知ることができる.埋もれた界面の原子スケール構造を非破壊的に解析する数少ない方法として利用価値が高く,さまざまな固相,固液界面に適応されている.詳細については応用例も含めた良い解説がある. 3)-8)表界面からの散乱は弱いため,構造解析は1回散乱近似で行われる.このとき複素散乱振幅と試料の電子密度はFourier変換で結ばれるが,位相情報を直接記録できないため,回折強度データをそのまま電子密度に変換できない(位相問題).バクル結晶の場合はタンパク質のような多原子系でなければ結晶学的直接法によって位相問題を解けるが, CTR散乱に基板からの散乱も含まれること,解くべき表界面(基板格子緩和部分も含む)の原子数が未定であること,分域の存在など,表界面に特有な問題のため直接法の適用は困難である.このため伝統的には,測定した散乱強度分布を再現する構造モデルを, Patterson図を基に,または試行錯誤的に見つけ出して,最小二乗法によって精密化する方法が用いられてきた.しかし,この方法を薄膜および界面構造に適用するのは難しい.一般に薄膜内部構造は表界面から伝搬する格子緩和や,平均位置からの静的ゆらぎが膜厚方向に沿って一様ではない.これらを正確に知るには,薄膜および界面に含まれるすべての原子の結晶学的パラメータを決定しなくてはいけない.言い換えると,薄膜+界面の厚みをもつ“単位柱”の構造決定である.多数の構造パラメータ263