ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

ページ
50/116

このページは 日本結晶学会誌Vol56No4 の電子ブックに掲載されている50ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

日本結晶学会誌Vol56No4

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

日本結晶学会誌Vol56No4

佐藤眞直5の注釈を参照).このように,わずか数秒で終了する溶接凝固過程の鋼材組成による違いを明瞭にとらえることに成功している.得られている情報としては,冷却に伴う相の変化(初相がFe-0.02%Cではδ相で, Fe-0.88%Cではγ相)だけでなく,二次元パターンとして観測できているおかげで,高温でのスポット的な回折パターンが冷却されるにつれてリング上に広がっていく様子から,デンドライト成長している凝固組織が固相変態によって微細化していく様子をとらえることができている.4.おわりに以上のように,放射光という高輝度光源,高性能な二次元検出器など,要素技術の高度な進歩により,古典的な手法であるX線回折もその見える世界は広がってきている.しかし,個々の要素技術の切れ味が鋭くなっている分,見たい現象に合わせて,適切な技術を組み合わせて実験技術をカスタマイズする,より高度なセンスが実験者に必要となる.例えば,高輝度光源を用いることで,現象のその場観察の時間分解能は高速化されるが,同時にその高平行性が回折信号検出の高角度分解能化をもたらす.これは測定対象が実用材料に多い多結晶試料の場合,結晶配向などの組織因子に対して鋭敏化することを意味し,平均的な情報を得ることが難しくなる.そのため,あらかじめ測定試料の組織情報を把握して,実験条件をチューニングする必要がある.つまり,高度化した実験技術を最大限に有効活用するには,分析対象に対する事前の慎重な検討と深い考察が重要である.この検討には, X線回折のみならず,電子顕微鏡技術など多様な分析技術を利用し,それぞれの特徴を活かして多角的な視点で分析対象を観察することが重要と考える.文献1)A. Taniyama, M. Arai, T. Takayama and M. Sato: Mater. Trans.45, 2326 (2004).2)M. Yonemura, T. Osuki, H. Terasaki, Y. Komizo, M. Sato andH. Toyokawa: Mater. Trans. 47, 2292 (2006).3)P. Kraft, A. Bergamaschi, Ch. Broennimann, R. Dinapoli, E. F.Eikenberry, B. Henrich, I. Johnson, A. Mozzanica, C. M. Schleputz,P. R. Willmott and B. Schmitt: J. Synchrotron Rad. 16, 368 (2009).4)H. Toyokawa, Ch. Broennimann, E. F. Eikenberry, B. Henrich,M. Kawase, M. Kobas, P. Kraft, M. Sato, B. Schmitt, M.Suzuki, H. Tanida and T. Uruga: Nucl. Instr. and Meth. in Phys.Res. A 623, 204 (2010).5)豊川秀訓,兵藤一行:日本放射光学会誌22, 256 (2009).6)豊川秀訓:金属80, 39 (2010).プロフィール佐藤眞直Masugu SATO(公財)高輝度光科学研究センター産業利用推進室Industrial Application Division, Japan SynchrotronRadiation Research Institute〒679-5198兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-11-1-1 Kouto, Sayo, Hyogo 679-5198, Japane-mail: msato@spring8.or.jp専門分野:X線分析現在の研究テーマ:放射光の産業応用262日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)