ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

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概要

日本結晶学会誌Vol56No4

In-situ X線回折測定による構造変化の定量解析と材料開発への応用トである.この二次元イメージから各時間のX線回折パターンを切り出し,その時間変化を示したグラフを図3に示す.この2つのグラフはメッキの組成の合金化過程の違いを比較しており,図3aは純亜鉛,図3bは亜鉛にアルミを0.13 mass%添加した試料のデータである. 1秒程度の時間分解能で合金相成長初期の回折パターンの時間変化の観測に成功しており,図3aはδ1相が生成する前に初相のζ相が生成した後消失しているのに対し,図3bは初相が生成しないという相変態過程の違いが明瞭に確認できる.また,図3bのデータをみると亜鉛が溶融してから7秒間ほど合金相が観測されない待機時間があることがわかる.これはアルミ添加によりメッキ界面に鉄の拡散を阻害して合金化反応を阻害する界面層が生成していることを示唆しており,このような事象も秒オーダーでの時分割測定が可能になったことで明らかになった.さらに彼らはδ1相の回折ピークの強度の時間変化からメッキ界面から成長するδ1相の層の厚みの時間変化について解析しており,両試料とも時間の二乗根に比例していることから,δ1相の成長は主にFe-Znの拡散に支配されていることを示唆する結果を得ている.3.溶接金属の急冷凝固過程のin-situ観察高輝度X線光源である放射光技術の発達は, X線回折測定が得意とするその場観察の時間スケールを産業における製造プロセスの多様な反応の時間スケールに近づけることに貢献している.これは放射光という光源の功績だけでなく, X線検出器技術の進歩に負うところも大きい.その事例として,米村らが実施した溶接金属の急冷凝固過程の時分割その場X線回折測定の事例を紹介する. 2)この実験はわずか数秒で完了する溶接中の金属の相変態過程を実験的に検証することを目的としたもので,前述の事例よりもさらに高速な時間分解能を必要とする.さらにこの凝固過程で生じる金属組織はデンドライトを形成して結晶成長するため,回折パターンは異方性をもつうえに,その方位はランダムである.そのため,ミリ秒オーダーのフレームレートをもつ二次元検出器が必要となる.この実験は,アンジュレーター光源をもつSPring-8のBL46XUに設置されたX線回折計を用いて実施されたもので,図4のレイアウトで示しているように,回折計上に設置した溶接ロボットで溶接過程を再現し,鋼材試料の急冷凝固過程におけるX線回折パターンの時間変化を二次元検出器でとらえている.使用した二次元検出器は高輝度光科学研究センターとPaul Sherrer Instituteが共同開発した二次元ピクセル検出器PILATUS 3)-6)である.この検出器の特徴は,上述のフレームレートを実現することができることだけでなく, X線の検出方法がシングルフォトンカウンティング方式であるため,低ノイズのデータを取得することができることにある.これにより高速測定で露光時間が短いことに起因する微弱な信号でも精度良く検出できることが可能である.図5のデータは試料からのX線回折パターンの一部を捉えたもので,画像データ左側が低回折角側に相当する.ここでは炭素組成の違う鋼材の凝固過程の比較を行っており,(a)~(e)がFe-0.02%C,(f)~(j)がFe-0.88%Cのデータである(各画像データの温度は図図4溶接金属の急冷凝固過程の時分割その場X線回折測定実験のレイアウト. 2)(Schematic illustration oftime resolved in-situ observation of solidificationduring welding steel by X-ray diffraction.)右上は実際の装置の写真.右下は二次元ピクセル検出器PILATUSの外観写真.図5溶接金属の急冷凝固過程におけるX線回折パターンの時間変化. 2)(Change of X-ray diffraction patternsfrom steel during welding.)(a)~(e)はFe-0.02%C試料のデータ((a)1500℃,(b)1450℃,(c)600℃,(d)500℃,(e)400℃).(f)~(j)はFe-0.88%C試料のデータ((f)1500℃,(g)1300℃,(h)700℃,(i)600℃,(j)400℃).日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)261