ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

日本結晶学会誌56,259-262(2014)産業界で活躍する結晶学(4)In-situ X線回折測定による構造変化の定量解析と材料開発への応用(公財)高輝度光科学研究センター産業利用推進室佐藤眞直Masugu SATO: Industrial Application of Quantitative Analysisof Material Structural Change by In-situ X-ray DiffractionX-ray diffraction technique is suitable for in-situ observation andquantitative analysis of phenomena occurring in manufacturing processof industries. Its time resolution has been progressed by applyingsynchrotron radiation. Two cases of industrial application of synchrotronradiation are introduced.1.はじめにX線回折は物質の結晶構造を調べる手法として古くからよく知られた手法であり, X線の応用技術としてX線イメージングとともになじみの深いものである.その主な特徴としては以下のような点が挙げられる.1材料中に存在する物質の相比率,格子定数などの構造情報を平均値として数値化することが可能.2非破壊分析が可能.3空気中での分析が可能.これらの特徴のメリットについて,材料開発の現場においてX線回折とともにスタンダードな結晶構造評価のツールとして使われる電子顕微鏡観察技術と比較しながら考察してみよう.電子顕微鏡の最大の強みは原子サイズオーダーの実空間分解能を実現できる点にある.これは材料特性の起源となる結晶構造に「何が起きているのか」を直接とらえることを可能にする大きな強みとなる.この強みにより,電子顕微鏡技術は現在のナノテクノロジーの発展を牽引してきたと言っても過言ではないだろう.しかしながら,この局所観察に強いという利点は反面,その現象による変化が材料全体で「どのくらい」起きているのか,平均化して数値化するという作業には弱い.産業における開発研究において,材料の機能発現を発見し,さらに「何が起きているのか」を見て新技術のイノベーションが起きた時,次につながるのはその製品化である.そのためには機能特性の制御が必要になり,その機能の起源となる現象が「どのくらい」起きれば望みの特性になるのか,定量的な評価が必要となる.この用途には1の平均的な構造情報の数値化が可能という特徴をもつX線回折は最適な分析ツールとなる.また,製造プロセスの開発においては,反応中に生じる現象について,「何が」「どれくらい」起きて日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)いるのかを「その場」で直接観察することができれば,反応メカニズムを把握しながら開発を進めることによる開発効率の向上が期待できる.この「その場」観察は,真空中での測定や,薄片化などの試料処理を必要とする電子顕微鏡にとって困難を伴う.この点,前述のX線回折の2, 3の特徴は大きなメリットとなる.このように, X線回折は非常にオーソドックスな手法であるが,材料開発において必須の分析手法であることは変わりがない.さらに,放射光という高輝度X線光源の発達に伴い,その技術的可能性は広がっている.特に,高輝度という特性から測定の高速化が実現し,「その場」を支配するパラメータの中でも「時間」について,すなわち現象の経時変化というテーマにもアプローチ可能となった.ここでは,産業界で実際に実施された時分割in-situ X線回折実験の事例を基にその有用性について紹介する.2.溶融亜鉛メッキの合金化反応のin-situ観察まず1例目として谷山らによって実施された溶融亜鉛メッキの合金化反応の観察例を紹介する. 1)これは溶融亜鉛メッキ鋼板の製造過程において,鉄鋼板に溶融したZnを塗布した後に施される加熱処理でメッキ中に生じるZnとFeの合金化反応を時分割その場観察したものである.図1に実験のレイアウトを示す.測定装置はSPring-8の偏向電磁石ビームラインBL19B2に設置されているX線回折計を用いている. 10μm厚のZnを塗布した鉄鋼板試料が回折計の試料ステージ上に設置した赤外線加熱炉内にセットされ,製造過程を模擬した加熱処理を施されながらX線が照射される.用いたX線のエネルギーはSi単結晶(結晶面(111))を用いたモノクロメータを用い28 keVに設定している.回折X線は回折計の検出器アームに設置された, X線用イメージングプレート(IP)を検出器とし259