ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

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概要

日本結晶学会誌Vol56No4

ポンプ-プローブ法を用いた生体分子の構造ダイナミクス測定頭値強度の高いフェムト秒パルスレーザーがその主な例であるが,測定試料が生体分子であるため,強度の設定にも気を付ける必要がある. NDフィルタで強度を落としたナノ秒レーザーは,ナノ秒以上の時間スケールの測定に有用である.一方フェムト秒レーザーであるが,こちらは平均強度の設定だけでなく,尖頭値も低くなるように整形することが有用なようである.本実験では, 2枚のグレーティングを用いて,フェムト秒のレーザーパルスをピコ秒オーダーまでストレッチングして用いている.試料からの散乱光を二次元検出器に蓄積するが, X線の経路上に空気が存在すると空気のX線散乱光が検出器に入り,バックグラウンドノイズとなるため,試料位置から検出器の間にヘリウム置換したチャンバーを設置する.また,遅延時間を変えて複数のデータ収集を行うが,十分な測定精度を実現するために, 1点の遅延時間に対して,数十回の測定を行い,その結果を積算する.3.2実験内容・結果本研究では,貝類(Scapharca inaequivalvis)の一酸化炭素結合型ヘモグロビンを測定試料として用いている.ヒトのヘモグロビンは四量体を形成しているが,こちらは二量体を形成している.ヘモグロビンは酸素を運搬するタンパク質であるが,一酸化炭素や一酸化窒素なども,酸素同様可逆的に結合させることが可能である.酸素や一酸化炭素などの配位子は,光照射によって解離,再結合することが知られているが,一酸化炭素の光解離の効率が高いために,酸素のようにヘモグロビンとの協同性相互作用をもつ配位子結合モデルとして,一酸化炭素結合型の試料が光解離実験に多く用いられている.溶液試料は,まず100 mMリン酸バッファ(pH 7.0)中に2~4 mMの2量体ヘモグロビン(HbI)を溶かし,窒素雰囲気下で10μlの1 Mジチオナイト溶液を加えて還元しておく.試料濃度はヘムの吸光度から見積もることができる. X線溶液散乱実験直前に一酸化炭素(CO)ガスをくぐらせ,一酸化炭素結合型の試料(HbI(CO)2)を作製し,直径1 mmのガラスキャピラリー中に素早く封入する.X線波長のピークを0.79 Aに設定し,レーザーの波長を527 nm,フェムト秒レーザーについては強度を0.5 mJ/mm 2に設定した.試料は室温の状態で測定する.溶液散乱シグナルのリファレンスとして,レーザー照射前のデータを用いるが,この実験では遅延時間-5マイクロ秒(-5μs)のデータをリファレンスとして用いている.これは,レーザー照射中の試料温度に統一して解析に用いるためである.フェムト秒レーザーをポンプ光に用いた実験では遅延時間を-5μs, 100 psから10 ns程度に設定し,ナノ秒レーザーをポンプ光に用いた実験では-5μs, 10 nsから50 ms程度に設定した.遅延時間が30μs以下の実験では, 150 psの放射光パルスをシングルパルスとして用い,遅延時間が30μs以上の実験では,測定時間短縮のた日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)図4二量体ヘモグロビンの時間分解X線溶液散乱差分スペクトル?S(q, t).(Time-resolved difference X-ray solution scattering curves, ?S(q, t), measuredfor solution samples of dimeric Hb.)め, 794 kHzのX線源から10パルスを抜き出し,疑似的に12.6μsのX線パルスとして用いている.それぞれの遅延時間での溶液散乱イメージについて円周積分し,-5μsのときのプロファイルを差し引いた差分スペクトル?S(q, t)を図4に示す.実験値をエラーバー付の黒線で表し,解析によって得られたフィット曲線を赤線で表した.これら複数の遅延時間でのデータについて特異値解析を行うと, COの解離・再結合過程に独立な3つの中間状態, I 1, I 2, I 3が存在することが明らかになった. 6)また,ヘモグロビンの配位子結合の系では,配位子が結合している状態をR(Relax)状態,結合していない状態をT(Tense)状態と呼んでおり,それぞれの定常状態での構造はすでに報告されている.この2つの分子構造を基に,各時間点における“ヘモグロビンの構造”と“ヘモグロビンと溶媒との相互作用”を分子動力学シミュレーション,および量子化学計算によって見積り,そこで得られた値を基にグローバル・フィッティングを行うことにより,サブユニットの回転,ヘム同士の距離, 2つのサブユニットの間の水分子の出入りなどが明らかにされた.図5にHbI(CO)2の構造変化の模式図を示す. COが結合しているR状態(図5左)にレーザーパルスを照射し,100 ps後に中間状態I 1, 3.2 ns後に中間状態I 2,その後中間状態I 3に遷移する様が観測された. I 3については,二量255