ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

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概要

日本結晶学会誌Vol56No4

富田文菜,佐藤篤志,野澤俊介,柴山修哉,足立伸一電子バンチの分布がそれぞれ異なっている.蓄積リング内を電子が安定に回り続けることができる位相が等間隔に存在するが,そのうちの一部に選択的に電子バンチを形成することが可能である.通常の定常状態試料の測定には,マルチバンチモードのX線を疑似CW光源(continuouswave:連続光源)として用いる実験で十分であるが,放射光X線のパルス性を有効利用するためには電子バンチの切り出しが容易である,シングルバンチモードが用いられることが多い.電子バンチの分布を,リング内で1カ所に設定したシングルバンチモードのほかにも,用途に応じてハイブリッドモードやセベラルバンチモードなどの運転モードが存在する.放射光施設では,蓄積リングから出射されるパルスX線のタイミングに合わせて励起光源のパルスレーザーを試料に照射する必要がある.そのため,パルスのタイミング制御系を導入した実験設備が必要である.次の章で,具体的な実験を例に挙げて説明する.3.二量体ヘモグロビンの時間分解溶液散乱実験3.1実験装置図3に,二量体ヘモグロビンの時間分解溶液散乱実験の実験装置の概要を示した.この実験は,高エネルギー加速器研究機構(KEK)の放射光施設,フォトンファクトリー-アドバンストリング(PF-AR)のビームラインNW14A 1)で行われた. PF-ARは通年シングルバンチモード運転を行っており,放射光源を用いた時間分解実験に適している.ビームラインNW14Aは,外部同期可能,かつ波長可変のパルスレーザーを導入しており,その他設備も時間分解実験に特化されたビームラインである.時間分解溶液散乱実験2)のほかにも,時間分解X線結晶構造解析実験, 3)時間分解XAFS実験など4),5)が100ピコ秒の時間分解能で実施可能である.蓄積リングの制御に使用している高周波信号をタイミング制御系に入力し,そこからX線パルスセレクター,波長可変パルスレーザー, X線用シャッター,レーザー用シャッターにトリガ信号を送る.図には書いていないが,シャッターの動作などはさらに測定用のプログラムから,検出器と試料台と合わせて制御されている. PF-ARリングからのX線パルスは,パルス幅は100ピコ秒オーダーであるが, 794 kHzの繰り返し数で出射されるため,そのままでは可逆反応の寿命との整合性が取れない.そこでチョッパーなどでX線を間引いてやる必要がある.今回用いたシャッターの開口時間が1ミリ秒程度なので,その上流でX線パルスセレクターにより1 kHzのX線パルスを作っておく.金属錯体や低分子化合物の時間分解実験を行うときは,その可逆反応は1 kHzで十分基底状態に戻ることも多いが,生体分子となると,その状態変化,および構造変化の過程は, 100ミリ秒では完了しない系が多く存在する.ここで紹介する二量体ヘモグロビンの実験では, 10 Hzの繰り返し数で実験を行っている.また, X線の1パルス当たりの強度を上げるため,単波長のX線ではなく,帯域幅の広い白色X線を使用することが有効である.ただし,挿入光源からの白色X線は,エネルギー幅が15%程度あり,解析において分解能の低下や,また測定試料に与えるダメージが大きくなることが懸念されるため,白色よりもやや波長領域を狭めたX線を用いて実験を行う. X線パルスセレクターの下流に多層膜ミラーを設置し, 5%のエネルギー幅をもつX線源に整形する.このX線源は,白色X線に対してピンクビームと呼ばれることもある.測定する溶液試料は,ガラスキャピラリーに封入され,X線照射位置にセットされる.次にレーザーの照射であるが, NW14Aには2種類以上のパルスレーザーシステムが存在する.パルス強度の高いナノ秒パルスレーザーと,尖図3時間分解溶液散乱実験の装置概要.(Measurement system of the time-resolved X-ray solution scattering.)254日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)