ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

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概要

日本結晶学会誌Vol56No4

小角散乱と結晶構造の複合構造解析認できる方法である.また,タンパク質の性状解析でもSAXS解析は有効である.すなわち, R g, P(r),分子量の見積もりなどから凝集の有無など,試料の物理的純度を評価できることから, Crystallizabilityの指標にもなる.近年,天然変性タンパク質に代表されるようにタンパク質の動的な構造と機能の研究の重要性は増してきている.このような状況で例えば苙口らのMD-SAXSのような結晶構造と小角散乱,計算科学を組み合わせた手法を天然変性タンパク質やマルチドメインタンパク質などのよりフレキシブルな系へと応用しようという試みがなされている. 13)-15)このようなフレキシブルな系では溶液中で取りうる構造アンサンブルは膨大になるためモデルの作製法に工夫が必要である.またEcoO109IのMD-SAXSの場合にはシミュレーション結果の検証としてSAXSを用いたが, SAXSデータを拘束条件として積極的に取り入れる必要も出てくる.さらにはNMRやイオンモビリティーMSなどほかの手法を組み合わせる必要もあるだろう.これらの方法はまだ開発が始まったばかりであり,今後多様な展開が期待される.謝辞図5H2A.BヌクレオソームのSANS解析.(SANS analysisof H2A.B nucleosome.)A)DNA,ヒストンおよびヌクレオソーム全体の散乱能を棒グラフで模式的に示す. 0, 40, 65, 100%の各D 2O濃度の散乱能を青の線で示す.B)D 2O 65%条件下で測定したI(q)から計算されたP(r).C)ヌクレオソーム内部のヒストン8量体の距離分布を示す.H2AヌクレオソームおよびH2A.Bヌクレオソーム中のヒストン8量体からの散乱強度データを収集した. 12) P(r)を計算したところSAXS解析の結果とは逆にH2A.BヌクレオソームではむしろP(r)のテーリングが小さくD maxは小さく見積もられた(図5B).つまりH2A.Bを含むヒストン8量体ではおそらくヒストンテール部分がコンパクトになっており,その結果, DNAが緩んだと考えられる.4.今後の展望国内の放射光施設において, BioSAXS実験が行えるビーラインが整備されており, SPring-8ではBL-45XU, PFではBL-10CがBioSAXSの主力ビームラインであると言えよう.また, PFにおいてはBL-15A2が現在建設中であり,高輝度ビーム,高速検出器,サンプルチェンジャーの導入により,ハイスループット測定システムが構築されつつある.今回は結晶構造解析とSAXSの相補的構造解析例を紹介した. SAXSは結晶のパッキングのない溶液中で結晶構造の妥当性,あるいは結晶構造との違いを簡単に確日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)EcoO109IのMD-SAXSは横浜市立大学苙口友隆博士(現,慶應義塾大学助教),池口満徳准教授との共同研究である.ヘテロPCNAの構造研究は崇城大学河合聡人助教,宮本秀一教授との共同研究である.ヌクレオソームの構造研究は早稲田大学の有村泰宏氏,立和名博昭博士胡桃坂仁志教授,および京都大学原子炉実験所杉山正明教授との共同研究である.放射光でのSAXS実験ではSPring-8の引間孝明博士,山本雅貴博士, PFの西條慎也博士,清水伸隆博士のサポートをいただいた.また,今回紹介したSAXS解析は全体を通して横浜市立大学佐藤衛教授のご指導とご支援によって行われた研究である.関係した皆様にこの場をお借りしてお礼申し上げます.文献1)O. Glatter and O. Kratky: Small-angle X-ray scattering, AcademicPress, London (1977).2)藤澤哲郎:蛋白質核酸酵素49, 1687 (2004).3)藤澤哲郎:放射光学会誌19, 429 (2006).4)P. V. Konarev et al.: J. Appl. Cryst. 36, 1277 (2003).5)D. Svergun: Biophys. J. 76, 2879 (1999).6)H. Hashimoto et al.: J. Biol. Chem. 280, 5605 (2005).7)A. Kawai et al.: J. Struct. Biol. 174, 443 (2011).8)T. Oroguchi et al.: Biophys. J. 96, 2808 (2009).9)苙口友隆,池口満徳,佐藤衛:結晶学会誌55, 24 (2013).10)H. Tachiwana et al.: Nature 476, 232 (2011).11)Y. Arimura et al.: Sci. Rep. 3, 3510 (2013).12)M. Sugiyama et al.: Biophys. J. 106, 2206 (2014).13)P. Bernado et al.: J. Am. Chem. Soc. 129, 5656, (2007).14)S. Yang et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. 107, 15757 (2010).15)B. Rozycki et al.: Structure 19, 109 (2011).251