ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

小角散乱と結晶構造の複合構造解析3.小角散乱によって明らかになったヌクレオソームの多様な構造図2EcoO109IのMD-SAXS解析.(MD-SAXS analysisof EcoO109I.)A)実測のI(q)をピンクのドットで, MDシミュレーションの各スナップショットから計算された散乱強度の平均を青の実線で示す.B)散乱曲線の低角領域のGuinier近似. C)MDシミュレーション中に見られたドメインモーションの向きと大きさを赤の矢印で示す. EcoO109Iのドメインモーションは開閉運動とねじれ運動という2つの要素で表わされた.MD-SAXSとは, MDシミュレーションで得られた構造アンサンブルに対して,散乱データI(q)を計算する.それらを平均化することでシミュレーション時間での散乱データが得られ,それと実験的に得られた散乱データを比較することで動的構造解析が可能になる.苙口らはEcoO109IのMDシミュレーションを行い,構造アンサンブルの平均散乱データを算出したところ,実験データとよい一致を示し(図2A, B), MDシミュレーションの構造アンサンブルが溶液中での動的構造を反映していることが実験的に裏付けられた.そこで,構造アンサンブルの時間変化を主成分解析し,構造変化を調べたところ,ドメインの開閉と回転運動が観測され,結晶構造解析で得られた単体の構造よりもサブユニット間が開いた構造への動きが観測された(図2C).このように, X線結晶構造解析, SAXS解析, MDシミュレーションを組み合わせたMD-SAXS法はそれぞれの手法の利点を活かすことで,実験的に裏付けられた動的構造解析が可能な手法である.巨大分子のMDシミュレーションを行うには多くの計算資源が必要であるが,計算機やプログラムの進歩によって,今後MD-SAXSはより広まっていくことが期待できる.小田らは早稲田大学胡桃坂教授,京都大学杉山教授と,ヒストンバリアントを含むヌクレオソームのSAXS解析を行ったので,それらについて以下に紹介する.3.1 CENP-Aヌクレオソームの構造解析真核生物のDNAは4種類のコアヒストン(H2A, H2B,H3, H4)の8量体に巻きつきヌクレオソームコア複合体を形成し,それがさらに高度に折りたたまれることでクロマチンを形成している. H4を除くヒストンにはそれぞれ配列の似たバリアントが存在し,これがヌクレオソームに取り込まれることでクロマチンの高次構造が制御されることが近年明らかにされつつある.初めに,セントロメア特異的なH3バリアント, CENP-Aを含むヌクレオソームの解析について紹介する. 10)セントロメアは染色体分配の際に動原体が形成される領域であり特別なクロマチン構造をとる. CENP-Aはこの特別なクロマチン構造の形成と維持に必要である.胡桃坂らによりX線結晶構造解析されたCENP-Aヌクレオソームは通常のH3(H3.1)を含むヌクレオソームと全体構造は似ているものの,ヒストン8量体に巻き付いているDNAの両端約13 bpがディスオーダーしていた(図3A). 10)結晶のパッキングの影響を受けていない溶液中での構造を確認するためにSPring-8 BL-45XUにてH3.1ヌクレオソーム,CENP-AヌクレオソームのSAXS解析を行った. R gはH3.1ヌクレオソームでは44 A, CENP-Aヌクレオソームではわずかに大きい45 Aであった.P(r)は両ヌクレオソームで大きく違わないものの, CENP-AヌクレオソームではH3.1ヌクレオソームよりもわずかにテーリングし, D maxは約17 A大きくなっていた(図3B).これらの結果は溶液中でもCENP-AヌクレオソームのDNAの両端部分がヒストン8量体からはがれて揺らいでいることを反映している.このはがれているDNAには同じくセントロメア形成にかかわるタンパク質CENP-Bの認識配列(CENP-Bbox)があり, CENP-Bと結合することで機能するのだろう.またこのようなヌクレオソーム構造の違いがより高次のクロマチン構造に影響を与えると推測している.3.2 H2A.Bヌクレオソームの構造解析さらにH2AバリアントであるH2A.Bを含むヌクレオソームを解析した. 11) H2A.Bは転写やDNAの修復・複製の際に一時的にH2Aと置き換えられる. H2A.Bヌクレオソームは立体構造は明らかにされていないため, SAXS解析によりその構造的特徴を調べた.測定はPF BL-10Cにて行った.得られた散乱曲線は,通常のH2AヌクレオソームとH2A.Bヌクレオソームで明らかに異なり,両者の構造が大きく異なっていることを示している(図4A). R gはH2Aヌクレオソームでは43.4 A, H2A.Bヌクレオソー日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)249