ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

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概要

日本結晶学会誌Vol56No4

小田隆,橋本博充填したものを初期構造とし,そこからビーズの削除あるいは付加によるモデル構造の修正を繰り返し,実測の散乱強度を満足できる構造を作製する(ab initioモデリング).この間,モデル構造から散乱強度I calc(q)を計算し,焼きなまし法により次式の評価関数が最小となるモデル構造が探索される.1f( X)=MMN∑∑() i() i? Iexp( qj) ? Icalc( q ) ?j????( qj)??i=1 j=1σ2+αPX( )(2)ここで右辺の第一項はχ2と呼ばれモデル構造Xから計算される散乱強度I calc(q)と実測値I exp(q)との一致度である.MはデータセットI exp(q)の数, NはそのI exp(q)のデータポイント数,σ(q)はI exp(q)の標準偏差である.P(X)はモデル構造のコンパクト性,充填ビーズの連続性などを与えるペナルティ関数,αはそのウェイトである.このようにして構築されたビーズモデル(ダミーアトムモデル,DAM)は低分解能ではあるが,溶液中でのタンパク質構造に関する有用な情報を与えてくれる.BioSAXSはほかの構造生物学的手法と組み合わせることで絶大な威力を発揮する.例えば,全長やホロ体でのX線結晶構造解析が困難なマルチドメイン,マルチサブユニットからなる生体超分子を対象に,ドメインやサブユニットに関してはX線結晶構造解析などの手法によって原子レベルの構造を決定し,全体構造や機能に重要な動的な解析をSAXSで行う.そして,それらの結果を複合的に解釈することで対象とする高難度な生体超分子の構造と機能を原子レベルで議論できる.本稿では, SAXSとほかの構造生物学的手法を用いた複合的な構造解析について紹介する.2.制限酵素EcoO109Iの結晶構造と組み合わせた動的構造解析BioSAXS解析において最も簡便でかつ結果の解釈が容易な解析は,散乱データを満足する溶液構造をab initioモデリングで構築する静的な構造解析であり,いくつかの解析例について紹介する.制限酵素EcoO109Iは特定のDNA配列を認識し,二本鎖DNAを切断するエンドヌクレアーゼであり,タンパク質単独および認識配列を含む二本鎖DNAとの複合体構造をX線結晶構造解析によって決定している. 6) EcoO109Iはホモダイマーを形成し,中央の大きく開いた溝でDNAと結合する. X線結晶構造解析で得られたタンパク質単体の開いた構造が溶液構造を反映しているかを調べるためにSAXS解析を行った.得られたDAMはX線結晶構造解析で得られたタンパク質単体の構造とよい一致を示し, DNAが結合する溝もDAMではっきりと確認できた(図1A, B). 6)このようなSAXSによる静的な溶液構造解析は結晶構造の妥当性を示す際に非常に有効である.タンパク質のX線結晶構造解析は原子レベル図1結晶構造とSAXS構造の比較.(Comparison ofbetween Crystal structure and SAXS structure.)A)分子表面モデルで表示したEcoO109Iの結晶構造. B)ab initioモデリングで得られたEcoO109IのSAXS構造(DAM).C)PCNAヘテロ4量体((PC-NA2-PCNA3)2)のDAM(ビーズ)と結晶構造(リボン)の重ね合わせ.の詳細な構造情報を与えるが,結晶環境下での構造であり,それが必ずしも溶液中の構造を反映しているかどうかはわからない.結晶構造が溶液中での構造を反映していることを裏付けるためにSAXS解析を要求するレビューアーも少なくない.橋本らは崇城大学河合助教との共同研究でヘテロPCNAの構造解析を行い, X線結晶構造解析とSAXS解析によって興味深い四次構造を明らかにしている. 7) PCNAは一般にはホモ三量体のリング構造を形成し,中央の孔で二本鎖DNAと結合するが,ある種のバクテリアのPCNAはヘテロ三量体のPCNA(PCNA1-PCNA2-PCNA3)をもつ.河合らは, PCNA2とPCNA3がヘテロ4量体を形成する興味深い結晶構造を明らかにし,それが溶液中の構造を反映していることをSAXS解析によって検証している(図1C).話をEcoO109Iに戻すと,前述のEcoO109IのSAXS構造は結晶構造と良い一致を示した.しかし,結晶構造におけるサブユニット間の距離は二本鎖DNAが内部の溝に結合するには狭い.したがって,二本鎖DNAが結合するためには,サブユニット間がさらに開く必要があると考えられ,結晶構造の温度因子からも触媒ドメインの揺らぎは予想された.横浜市立大学の苙口と池口は分子動力学(MD)シミュレーションとBioSAXSを組み合わせたMD-SAXS法を開発し, EcoO109Iの動的構造解析を行った. 8),9)248日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)